女性活躍事例

「憧れのロールモデルが牽引し、
業界平均の5倍の女性比率を実現」

坂本デニム株式会社

  • 製造業
  • 福山市
  • 31〜100
  • 両立・継続支援
  • 人材活用
  • 能力開発・キャリアアップ支援
所在地 広島県福山市神辺町平野231
URL http://www.sakamoto-d.co.jp/
業務内容 坂本デニム株式会社は、1892年創業以来伝わってきた藍染技術を、ジーンズ染色に応用し、技術革新を行ってきた。事業内容は、インディゴ連続染色(綿糸をインディゴ色で染めること)・整理加工、原反染色加工、デニム生地販売、環境事業(環境機器販売及びメンテナンス)、イヌ用デニムグッズ企画販売を行っている。
従業員数 79名
女性従業員比率 36.7%
女性管理職比率 33.3%

(2017年10月現在)

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代表取締役社長 坂本量一氏

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  • 繊維工業の女性管理職比率平均が6.6%に対し、5倍の33%を誇る
  • 憧れのロールモデルの存在が女性の上昇志向に火をつけ、次のロールモデルを生む
  • 伝統継承の面でも従業員は財産。繁忙期に対応できるように多能工化も

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1 繊維工業の女性管理職比率平均が6.6%に対し、5倍の33%を誇る

坂本デニム(株)(以下、坂本デニム)が本社と工場を構える福山(備後)地区は、備中・備前と並び、昔から繊維産業が盛んな地区だ。これらの地域(以下、三備地区)は昔から「浅黄(あさき)木綿」「紺木綿」と呼ばれる藍染織物の産地で、その「藍染」の技術を生かしたインディゴ織物が戦後導入されたことで、今ではデニム生地の産地となっている。三備地区の産業の特徴は、デニム製品の生産工程を分業し、それぞれ得意な中小企業が担当、地域全体でデニム生産を行っている点である。例えば「糸染め」や「織布」は井原市や福山市神辺町にある企業が、「縫製」は福山市新市町や倉敷市児島地区の企業が担うケースが多い(※1)。こういった分業体制の中、坂本デニムは「糸染め」を担当している。
繊維産業は、古くから多くの女性が支えてきた歴史があるが、「糸染め」という染色工程は主に男性の仕事と考えられ、女性従事者は少なかったそうだ。それにもかかわらず、坂本デニムでは四半世紀近くの間、生産工程でも女性が活躍しており、また女性管理職比率の高さも目を引く。女性従業員数に比例して女性管理職を積極的に登用しており、繊維工業の同比率全国平均が6.6%(※2)であるのに対し、同社は33.3%と5倍近くも高い(図1)。また、配置に関してみても、販売や生産、技術職において男女区別なく適材適所に人員を配置している(図2)。なぜ同社では女性活躍が進んでいるのか。その背景には「女性管理職ロールモデルの存在」と「男女問わず自然と優秀な人材に任せる社風」があった。

※1出典:福岡県立大学人間社会学部紀要(2012年)永田瞬著「三備地区における繊維産業集積の現状」
※2出典:厚生労働省(2017年6月)「賃金構造基本統計調査(産業ごとの管理職に占める女性労働者の割合の平均値)

図1 坂本デニムの女性従業員比率、女性管理職比率、全国の女性管理職

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図2 坂本デニムの平成29年度の配置状況(男女)

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2 憧れのロールモデルの存在が女性の上昇志向に火をつけ、次のロールモデルを生む

女性従業員が管理職になりたがらない、といった声をよく耳にする。実際、広島県の企業の24.4%が「女性従業員が管理職になることや管理職を見据えたキャリアアップを希望しない」ことを女性管理職が少ない理由に挙げている。(※3)しかし、坂本デニムの女性従業員は昇進に意欲的であり、それに応じて企業もやる気や資質があれば男女区別なく管理職に登用する。20年前から女性の管理職が活躍しているというので取組を尋ねた。背景には、前専務(先代社長夫人)の存在があるようだ。前専務は、坂本デニムの管理部門のトップであり、礼儀作法など社会人としてのマナーには非常に厳しい人であったそうだ。いきいきと働く姿、誰から見ても「かっこいい」と思われるその姿を見て「専務のようになりたい」という憧れを持つ女性従業員が多かったという。そういったロールモデルの存在が社風作りに大きく貢献するとともに、会社もやる気がある女性に仕事を任せて活躍の場を与えてきたことが昇進意欲につながり、現在の女性部長1名、女性課長3名という体制を生み出すことができているようだ。前専務が退任した後も、ロールモデルの存在感は後進の女性たちへと受け継がれている。現在、データ管理室の女性課長である山中氏は、同じく女性管理職の村上総括部長の姿を追い掛けてきたという。ロールモデルの存在が、次のロールモデルを生むという良い循環ができているようだ(山中氏の記事はこちら)。

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坂本社長は「今でも、業界内では染色の現場においては男性と女性の役割分担があります。昔は管理部門の仕事は単純でしたが、今はどんどん複雑になってきています。当社の管理部門が全員女性であるのは、そういった複雑化した業務をこなせる能力のある人材がたまたま女性だったというだけです。当社も昔は業界で一般的に見られる傾向と同様に、経理も含め男性管理職でしたが、女性に任せたら能力を発揮してやってくれました。新しいことにも挑戦してくれるし、問題を事前に発見して、的確に報告し、解決まで持っていってくれるので安心して任せられます。男女関係なく優秀な人材にどんどん活躍してもらいたいです。当社の女性は非常に元気ですね、と他社の方にも言われますよ」と誇らしげに話す。

(※3)出典:広島県(2017年3月)「広島県女性活躍推進企業実態調査報告書」


3 伝統継承の面でも従業員は財産。繁忙期に対応できるように多能工化も

図3 デニム糸染色の流れ

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type2_sakamoto_denim_6.jpg坂本デニムでは、染色現場の重要工程(図3の「整経」~「糊付」の部分)においては、昔から男女の性別特性などを生かした役割分担はある。機械のメンテナンスを伴う「染色」「糊付」は主に男性が担当し、糸を巻いたり、並び替えたり、切れた糸を結んだりと細かい作業を伴う「整経」「分繊」は主に女性が担当しているという。村上総括部長から見ると、女性も男性も現場で働く姿はまさに「職人」だそうだ。最初は手元がおぼつかなかった従業員も、経験値を上げるほどに手元を見ず、話しながらでも正確な作業ができるようになるという。そういった職人技を身につけた従業員が長く働くことは、同社にとって技術継承という面から見ても重要だそうだ。トップがそういう意識を持ち、ライフイベントなどで退職せずに済むように、働き方に配慮する。例えば、育休復帰後や介護等との両立支援制度の利用は本人の希望に合わせてフレキシブルに対応するという。定時は8時~17時だが、子どもや両親の送迎を終えて出社する従業員には、8時30分~17時30分と始業時間の繰り下げを行うフレックス制度や、9時~17時の時短勤務を認めている。また、時間外労働を削減する取組として多能工化を実施。デニム業界は3~5年の周期で流行の波があり、雑誌等でデニム特集が組まれると一気に繁忙期を迎えるという特殊な業界である。いつ繁忙期が来ても対応できるように、仕事に余裕がある時に他の工程の技術を勉強し、習得しておく。普段は「整経」を担当している従業員が「分繊」の技術も取得しておくといった具合だ。そうしておけば、いざ繁忙期を迎えた時に各工程の課長が協議し、足りない工程に人員を補充し合うことができるため、各従業員の負荷を減らし、効率的に業務を行うことができる。多能工制は余裕のある工程から忙しい工程へ人員を補充し、就業時間内に仕事を終わらせるように調整を図るなど、日々の仕事においても役に立つ。こうした改革も「不要な残業はさせない」という村上総括部長の強い想いがあってのことだ。残業が必要なときも、無理なく、お互いを思いやり、手分けして対応できることが理想だと考えている。また、従業員の希望があれば、正社員からパートへの転換も認めており、平成29年には2名がこの制度を利用した。「結婚・出産をしても働き続けてほしい」という想いをきちんと従業員に伝え、男女ともに長く働きやすい職場環境づくりを無理なく行っている。


取材担当者からの一言

坂本デニムへインタビューを申し込んだ当初、村上総括部長は「うちは特に何もしてないですから」と話していた。しかし、高い女性管理職比率の背景には何か魅力的な取組があると思い話を伺った。
すると、「一世代前における女性管理職のロールモデルの存在」「男女区別なく優秀な人材を登用」「女性のライフイベント等に対応して柔軟に勤務時間等を調整」「生産工程における男女の得意分野を生かした役割分担」等の取組が存在し、昨今女性活躍に必要だと言われている施策が自然と実践されていることがわかった。さらに「ロールモデルが次のロールモデルを生む」という理想的な循環があり、その結果「女性従業員の人数に比例して女性管理職がいる」という多くの企業が目指す最終形にすでに到達していた好事例であり、ロールモデルの大切さと風土の必要性を再認識させられた。

type2_sakamoto_denim_7.jpg●取材日 2017年10月
●取材ご対応者
代表取締役社長 坂本 量一 氏
総括部長 村上 和美 氏