女性活躍事例一覧

「事業所内託児所や女性管理職への道を拓き、
有給休暇取得率も2倍に」

呉信用金庫

  • 金融業・保険業
  • 呉市
  • 301以上
  • 両立・継続支援
  • 能力開発・キャリアアップ支援
  • 職場風土
認定マーク
所在地 広島県呉市本通2丁目2番15号
URL http://www.kure-shinkin.jp/index.shtml
業務内容 1925年の創業以来“くれしん”の愛称で地域の方々に長く愛されてきた地域金融機関。会員数63,938名、預金積金6,839億円、店舗数42店舗(うち1出張所)で、呉市を中心に広島県全域を営業地域としている。主な業務内容は、預金業務、貸出業務、為替業務、証券業務、その他付帯業務。2016年6月には、子育てサポートに取り組む企業として「くるみん」(※1)の認定を受けている。協同組織の地域金融機関として「地域社会の繁栄に貢献する」ことを重要な使命の1つと考え、地域の企業・事業者への経営サポートや、顧客のライフステージに応じた提案など、地域密着型金融の推進に積極的に取り組んでいる。
従業員数 744名
女性従業員比率 46.1%
女性管理職比率 6.1%

(2017年8月現在)

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※1 次世代育成支援対策推進法に基づき一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができる。(出典:厚生労働省HP)

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理事長 槙岡 敬人 氏

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  • 事業所内託児所を開所して10年。これまでに60人の従業員が利用
  • 育休中に復帰後を見据えた研修を行い、知識と心の準備を
  • 女性管理職を目指せる職場に改革するための一歩として「有給休暇取得率上昇」を実現
  • コース分けによって働き方を選択できることで新卒採用も成功

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1. 事業所内託児所を開所して10年。これまでに60人の従業員が利用

呉信用金庫(以下、くれしん)は、地域密着型の協働組織型金融機関で、呉市を中心に広島県内で預金業務、貸出業務、為替業務、証券業務等を展開している。男女区別なく個々のライフスタイルに合わせた働き方ができるようにと以前から取組を行ってきた結果、近年結婚・出産で辞める女性はほとんどいなくなったという。特に、平成28年度の女性の育児休業取得率は100%であり、こうした数字からも女性の定着率の高さがうかがえる。
ワーキングマザーの雇用維持に早い時期から、取り組んできたくれしんであったが、中でも特筆すべきは平成18年に旧店舗を改装し、事業所内託児所「しんちゃんランド広」を開所したことだ。目的は育休復帰のハードルになる待機児童問題に対処するため。施設整備には労働局の助成金を活用し、運営は専門事業者に委託する。小学校入学まで入所可能だが、実際は保育園に入る3歳頃までの利用が多い。開所当時、事業所内託児所のある信用金庫はほとんどなく、他の信用金庫が取組内容や託児所の様子を見学に来るほど先駆け的な存在となった。「しんちゃんランド広」は平成28年で10周年を迎え、開所以来、累計60名の従業員が利用している。

2 育休中に復帰後を見据えた研修を行い、知識と心の準備を

女性従業員が多く、定着率の高いくれしんは、新卒で入庫した女性が3年目~7年目に産休育休を取得する例が増加しており、毎年15人から20人の従業員が育児休業を取得している。復職率も高いが、育児休業取得中の女性にとって復職には不安もある。また、金庫側にとっても、ブランクのある女性を復職後どのように活用していくかという点で多少の戸惑いは拭えない。
そうした中、3年前から、育休を取得している従業員向けに、業務に関する制度や法律の変更点等を説明する研修を開始した。人事部門が講師となり、半年に1度のペースで行っており、子連れでの参加も可能である。業務知識のアップデートができれば、現場に入る前に準備もできる。また、休職中に少しでも会社との関わりを持つことで復職に対する意識も高まる。このように双方が空白期間を埋めてすぐに復帰できるような体制づくりを進めているのだ。
復職後は時間外免除制度や短時間勤務制度を利用する従業員が多いが、業務をカバーしやすいように人員数が多い大型店舗に配置するなど企業全体での工夫もされている。

3 女性管理職を目指せる職場に改革するための一歩として
「有給休暇取得率上昇」を実現

女性の採用数や定着率は高いものの、従来から「女性の管理職比率が低いこと」、「女性が管理職になりたがらない傾向にあること」が企業内の課題であった。その要因の1つに、「部下を置いて帰りづらそう」、「有給休暇が取りにくそう」、「管理職は残業が多そう」等、従業員が管理職になるにあたって抱えている不安があった。そこで、平成27年9月に施行された女性活躍推進法をきっかけに、管理職の働き方改革、男女区別なく働きやすい職場環境整備を推進するとともに、生産効率を上げることを目的とし、全社を挙げて取組を開始した。平成28年4月には次世代法に基づく一般事業主行動計画(※2)を発表、定量的目標として「(1)有給休暇取得率アップ」および「(2)女性管理職比率アップ」を掲げた。(※3)
これらの目標を達成するために、平成28年5月に「ダイバーシティ推進専門委員会(Woo!!プロジェクト)」を設置。メンバーは、管理職2名、役付2名、一般従業員3名の計7名で全員女性である。全員女性にしたのはメンバー同士での意見の言いやすさ、問題意識の高さを重視したため。女性の活躍を入口に、有給休暇の取得促進や業務効率化の提言等を通じてES(従業員満足度)、CS(顧客満足度)向上を目指しているところだ。委員会での「働きがいがある会社とは」という議論において、まずは(1)「有給休暇の取得率を高める」ことが最優先課題だという意見が出てきた。「抜けた穴をカバーし合うことで仕事内容を共有でき、チーム全体で業務を行うことができる」「属人化も防げ、本人もリフレッシュ」「自己啓発に充てて人材育成ができる」などのメリットがあると分析。その取組の一環として、平成28年秋から「有給休暇のスケジュール表」の運用を開始した。3カ月のスケジュール表に自分が休みたい日をチェックし、部店内で回覧する。従業員同士でどの日に誰が休むのかということを「見える化」することで、他の人が取っているなら自分も取ろうという気持ちにさせる、また人員の多少を見ることにより従業員同士で休みの調整ができるという効果もあった。
このスケジュール表の導入により、平成27年度は「有給休暇取得率50%以上」の従業員が30.5%だったのに対し、平成28年度は60.5%と約2倍になり、人事担当者も驚きを隠せないほどの目覚ましい成果があった。実際に休みを取りやすい風土が醸成され、ママ友の間でくれしんの評価が高まっているとの声も聞こえてきたそうである。女性従業員のモチベーションアップにもつながったようだ。学校行事など有給休暇の取得者が重なる際には、近隣店舗から一時応援に来てもらう等、企業内全体で協力できる体制づくりも進めている。

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※2 次世代法に基づく一般事業主行動計画

次世代育成支援対策推進法に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、(1)計画期間、(2)目標、(3)目標達成のための対策及びその実施時期を定めるもの。従業員101人以上の企業には、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務付けられている。(100人以下は努力義務)

※3 呉信用金庫の一般事業主行動計画はこちら

4 コース分けによって働き方を選択できることで新卒採用も成功

平成26年10月から総合職・特定職(※4)というコースを設けた。職員の多様化するライフスタイルやキャリアビジョンに対応することで「女性管理職比率をアップさせる」、「特定職も働き方をある程度制限した上で管理職を目指せる」、「自分のライフイベント・キャリアアップによってコースを転換できる」といった制度整備を進めるためである。実際、平成29年度の採用において、女性採用数のうち3割強を総合職として採用。採用数自体も女性の方が多く、平成29年度の新卒採用人数は男性13名に対し女性は約2倍近い23名であった。
また女性管理職においては、部長相当職3名のうち特定職が2名である(平成29年度4月1日時点)。管理職でも、これまでのキャリアを踏まえ、融資業務ではなく預金業務の比率の高い店舗の支店長(部長相当職)に配置する等、一定の配慮を行っている。また、これまで女性比率の低かった「融資業務」について、女性従業員を対象とした研修も開始している。今後は、男女区別なく管理職を目指せるキャリア設計を可能にすることが目標だそうだ。

※4【総合職】と【特定職】
【総合職】金庫の求めに応じて業務全般に従事。高い能力・意欲および適性を備え、強い意志を持ち、将来の管理職を目指すコース。
【特定職】原則として渉外業務は担当せず特定の業務に従事。技能の発揮を通じて高い生産性の向上を目指すコース。店頭・店周営業および電話セールスなどの営業は含む。
呉信用金庫 新卒採用ページ 募集要項より

取材担当者からの一言

金融機関は一般的に女性比率、女性定着率が高い。また、くれしんは地元密着で県外転勤もないので地元志向の女性には人気の職場だ。有給休暇取得率向上の取組をきっちり行い、その効果が目に見える形で出たということは非常に大きな成果で、他企業のモデルともなるだろう。今後の課題としては、男女区別なくキャリアプランを描けるようにするため女性管理職比率や男性の育児休業取得率を向上させることがテーマとなりそうだ。女性活躍に本気で取り組むためには、トップからの意識改革、意識啓発をいかに積極的、継続的に行えるかもカギとなる。ますます今後に期待したい。


type2_kureshin_4.jpg●取材ご対応者
調査役(人事担当) 服部 亨祐 氏
経営企画部 調査役(経営企画担当) 高本 恭子 氏