女性活躍事例

「ワーキングマザーを積極的に採用し、
長く勤められる具体的な工夫を実践」

ケイ・エヌ情報システム株式会社

  • その他産業
  • 広島市
  • 31〜100
  • 方針・取組体制
  • 両立・継続支援
  • 評価・処遇
  • 職場風土
所在地 広島県広島市東区光町2丁目6番31号
URL http://www.knc.co.jp/index.html
業務内容 1994年7月 極東工業株式会社(現極東興和株式会社)の情報部門を分社化して、ケイ・エヌ情報システム株式会社を設立。親会社は株式会社ビーアールホールディングス。建設業の豊富な業務知識の他、製造業、流通業、レンタル業等幅広い経験に基づき、システム構築、インフラ構築、受託サービス等多岐に渡るサービスを総合的に提供しているIT企業である。
従業員数 44名
女性従業員比率 22.7%
女性管理職比率 20.0%

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代表取締役社長 坂本 達雄氏

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  • 有給休暇の時間単位取得や所定外労働時間削減への取組で、人材不足の課題に対処
  • ワーキングマザーの積極的採用、職場環境の整備が功を奏し、平均勤続年数が男性の1.7倍に
  • 所定外労働を削減し、労働生産性を高めるために「段取り表」「生産手当」を導入
  • トップの思いが軸となり、リーダー・従業員に浸透。理想的な社風を醸成

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1.有給休暇の時間単位取得や所定外労働時間削減への取組で、
人材不足の課題に対処

type2_knc_3.pngケイ・エヌ情報システム(以下、ケイエヌ)は、東証一部上場株式会社ビーアールホールディングス(本社:広島県広島市東区、ケイエヌ所在地同じ)の子会社として、建設業や流通、電力業等のシステム開発、インフラ構築等を主な事業とする会社である。また、同ホールディングスには、プレストレスト・コンクリート製の橋梁工事や構造物の補修・補強工事で全国展開している極東興和株式会社がある。


ケイエヌは従業員44名(平成29年8月現在)と比較的小規模の会社であるため、経営トップの意見が社内全体に浸透しやすい環境といえる。

働き手不足による人材確保の問題は、昨今多くの企業がそうであるように、ケイエヌにとっても経営課題の1つと考えられている。小規模な会社は大手に比べ、知名度などの点で劣るため、特別な優位性、特異性がなければ採用の市場では不利となる。そのため同社では強みの1つとして、「男性従業員、女性従業員が共に働きやすい職場環境づくり」に取り組んできた。

具体的な取組として、次世代法による「一般事業主行動計画(※)」(以下、行動計画)を策定をしている(図1)。従業員数が100人以下である同社にとっては、法令での策定が義務化されていないものの、この計画を作成し実践している。従業員が子供の看護のために時間単位の有給休暇を取得可能としたり、所定外労働時間の削減に向けて仕事の効率化を図る仕組みを導入したりと、各種施策を導入し課題解決に取り組んでいる。


図1 ケイエヌの一般事業主行動計画(抜粋)

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(※)次世代法「一般事業主行動計画」…次世代育成支援対策推進法に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、(1)計画期間、(2)目標、(3)目標達成のための対策及びその実施時期を定めるもの。従業員101人以上の企業には、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務付けられている(100人以下は努力義務)。

2.ワーキングマザーの積極的採用、職場環境の整備が功を奏し、
平均勤続年数が男性の1.7倍に

主力事業がシステム開発やシステムインフラの構築等であるため、ケイエヌには「ITエンジニア人材」が必要不可欠である。しかし、新卒者の多くを大手企業と奪い合うため、募集の枠を広げ、「他の会社でWeb・オープン系システムの開発経験を持ち、結婚や出産等を機に退職した女性」の採用も積極的に進めている。リクルートサイト上でも、求める人材像を「ブランクのある方でも歓迎。経験年数は不問」と謳っている。応募者数はまだまだ少ないが、目標達成に向けワーキングマザーにとって働きやすい職場環境づくりを進めていることもあり、入社から長期間に渡って働き続ける女性が多く、同社の取組による就業継続は数字でも成果が表れている。

平均勤続年数は男性の5.6年に対し女性は9.3年と定着率が高い。また、子育て中の女性は全体の56%と、ワーキングマザーが全体の半分以上を占め、女性正規従業員9名中7名が、SE(システムエンジニア)や社会保険労務士など専門技術や知識を持っている。このように女性の活躍が目を引く企業だ。

図2 ケイエヌの女性従業員の定着率、ライフステージと働き方

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ワーキングマザーの定着率の高さには、3つの理由が考えられる。

1つ目は、自分の都合に合わせ業務を柔軟に調整しやすいこと。基本的に仕事は各プロジェクト単位で動いており、プロジェクト毎に一定の期間と仕事量が決まっていることから、プロジェクトリーダーがメンバーの家庭環境や能力等に合わせて業務を振り分ける。そのため、ワーキングマザーは与えられた期間と仕事量と自分のワークライフバランスを考え、柔軟に業務を調整することができる。働きやすい環境づくりのため様々な制度導入を検討したが、属人化をなくすことは「専門的な技術や知識を要する」という職務の特性により難しく、また在宅勤務の導入はセキュリティの問題等で難しい。その代わりにと、時間単位有給休暇制度やフレックスタイム制度を整備し、「休みを取りやすい」「休日の振替がしやすい」など、柔軟に出勤できる環境を整えたという。勤務地が広島駅に近く、通勤の利便性が良いことも当社のメリットの1つだ。

2つ目は、「子供が小さい従業員は時短勤務での働き方が当たり前」という風土が職場内に根付いていること。背景には坂本社長の考えが大きく影響している。「子供がいる従業員の制約は仕方がないと思います。復帰した人の仕事量が一時的に落ちることも、仕事を休むのも、仕方がないことでしょう。育児中は、専門性を生かして決められた時間内で必要なアウトプットを出してもらい、育児が落ち着いてからさらに活躍してくれれば良いと考えています」と坂本社長は話す。こうした考えが従業員に浸透し、それが社風となっているため、ワーキングマザーにとって居心地の良い職場環境となっている。また、職場内に時短勤務制度利用者も多いため、同じ境遇の女性同士で相談し合える仲間がいるということが相乗効果を生み出しているようだ。

3つ目は、「時間」ではなく「成果」で評価をすること。時短勤務制度を利用している女性従業員は育児中の女性従業員全体の6割にのぼり、理解が得られれば取引先で仕事をする時短勤務の従業員もいる。そういった従業員が不利にならないようにという考えもあり、成果主義を取り入れているという(評価の仕組みは、次の項目「3.所定外労働を削減し、(略)」を参照)。時短勤務制度利用者にとっては労働時間数で評価が下がることがないため、決められた時間内で精一杯アウトプットすることに集中すれば良く、本人が望めば昇進昇格も制限していない。「行動計画」に基づき、時間単位で年次有給休暇取得ができる規程も平成28年2月に整備。労務管理の混乱を避けるため、育児、介護中の従業員限定で開始しており、現在は育児中の女性中心に利用が進んできているという。

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3. 所定外労働を削減し、労働生産性を高めるために
「段取り表」「生産手当」を導入

ケイエヌの進める「男女関係なく働きやすい職場環境づくり」において、面白い取組が2つある。

1つ目は、段取り良く仕事をこなしている従業員に、「生産手当」を支給することだ。各個人に1カ月の仕事を割り振り、与えられた仕事に対して120%の進捗でこなした場合は、20%分の生産手当を支給し、逆に80%の場合は20%分を差し引く(ただし、最低支給額は設定)。プロジェクトの期間・工程ではなく、1カ月単位の生産性、出来高で支給額を決めていくそうだ。この仕組みにより、リーダーはより精度の高いチーム管理が求められ、個人としても計画的に目標達成に向けて業務にあたるという良い循環ができているようだ。特に、時短勤務制度利用者にとって、時間ではなくアウトプットで評価されるため、モチベーションアップにつながることが期待されている。この取組を機に、「効率性は徐々に上がってきているところではあるが、制度設計の継続的な改善は必要」と同社は分析している。今後は、業務の効率化を図ると共に生産性を上げ、全従業員のワークライフバランスを整備することが目標だそうだ。

2つ目は、所定外労働時間の削減に向けて導入した「段取り表」だ。平成28年2月から、「残業時間の現状把握、業務の効率化を図り、労働生産性を高める」ための取組検討を開始。翌年に自社独自の取組である「段取り表」(図3)を導入した。この表の作成手順は、まず、リーダーがプロジェクト毎にチームメンバーに適切なタスク(仕事と期間)を割り振る。各メンバーは自分に割り当てられたタスクを基に月次、週次、日次とタスクを細かく分けていき、「段取り表」として1日のタスクの進捗状況の管理を行う。段取り表は統轄管理者がその運用をチェックし、共有システムで社内全員が閲覧することができるというものだ。また、この「段取り表」を活用し、個人の進捗度や生産性を把握するとともに、前述の「生産手当」の支給へと繋げる仕組みだ。

図3 ケイエヌが活用している段取り表とその仕組み

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4.トップの思いが軸となり、リーダー・従業員に浸透。
理想的な社風を醸成

type2_knc_9.jpg男女区別なく働きやすい職場環境づくりの背景には、坂本社長の人材育成に対する熱い思いがある。

坂本社長は「今後は働き方改革に向けて人材育成、意識改革を進めていかなければならない時代。段取り表はその1つの取組に過ぎません。自分で目標設定を行って実践し、仕事の見える化を行うことで自然と定時に帰ることができるようになり、ワークライフバランスも整ってくるのではないかと考えています。今の若い世代は共働きが多いので、男女関係なく自分たちの仕事の質を上げ、仕事と家庭のバランスをとっていかなければなりません。そして、空いた時間でキャリア形成等の勉強、リフレッシュなどもしてもらえればと思います」と従業員の活躍を願う。また、管理職の育成について考えを尋ねると「特効薬はないから、OJTとOff-JTの組み合わせで地道に進めていくしかない。リーダーには『(部下に)作業を与えるのではなく、仕事を与えなさい』と常に言い聞かせています。自分の裁量で仕事をする経験を積み重ねることが、管理職育成にとって非常に大切」と語る。採用に関しても、「専門性が高く、決められた時間内で必要なアウトプットをしてくれれば、男女関係なく採用していきます。ブランクがあったり、他の業界に勤めていても当社の求めている人材像に合えば採用したい。リクルート活動でいかに当社の良さをPRできるかが今後の課題ですね」と話してくれた。


取材担当者からの一言

ケイエヌの仕事と家庭の両立に配慮した制度整備、職場風土の醸成は、自社課題に応じた明確な目標を立て、公表し、着実に実行に移していることで作られてきたものであり、「女性の定着率の低さ」に悩む他の組織にとっても参考になる例の1つなのではないだろうか。特に時短勤務者は評価が不利になりがちであるが、生産性に対する評価を重視していることから、モチベーションアップにもつながっている。

実行にあたっては、経営トップの「働く女性に対する理解」、「人材確保と育成に対する強い思い」、それから実際に推進していく「管理職のリーダーシップ」が欠かせない。坂本社長の考えを従業員に伝えるため、社内の至るところに名言や格言、働き方に関するポスターが掲示され、常に従業員の目に入るように工夫されていた。また、100人以下は努力義務である「次世代法に基づく一般事業主行動計画」を策定し、目標を定めて計画的に取組を進めている。このような会社の取組や強みを積極的に社外に発信することで、より一層の人材確保につながっていくと思う。

●取材日 2017年8月
●取材ご対応者
代表取締役社長 坂本 達雄 氏
管理部部長(兼)品質保証管理室 室長 小田 章子 氏