女性活躍事例

「誇れる島のレモンケーキと雇用を生む。働き方改革の次は『モチベーションアップ』」

株式会社島ごころ

  • 製造業
  • 尾道市
  • 31〜100
  • 両立・継続支援
  • 職場風土
法人名 株式会社島ごころ
所在地 尾道市瀬戸田町沢209-32
URL http://www.patisserie-okumoto.com
業務内容 代表取締役社長の奥本隆三氏が「瀬戸田をもっと誇れる島にしたい」と考え、2008年4月に出身地である尾道市瀬戸田町において、個人経営の洋菓子店「パティスリー・オクモト」を開店した。「地元食材を使ったお土産品が欲しい」との要望を受け、試作を重ねた末、2009年に発売したレモンケーキ「島ごころ」がヒットし、順調に業績を伸ばしている。直営4店舗のほか、駅、空港や高速道路のサービスエリア、また広島県内外の有名百貨店等で販売され、広島の新しい土産・菓子の定番となっている。
従業員数 54名
女性従業員比率 81.5%
女性管理職比率 60.0%

(2018年10月現在)

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  • 瀬戸田町の地元食材を生かしたヒット作を生み、島に雇用を創出
  • 経営者・管理職自身も仕事と子育ての両立を実践中で環境改善の旗振り役に
  • 働き方改革の次は個々人の向上心アップと組織の活性化

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1.瀬戸田町の地元食材を生かしたヒット作を生み、島に雇用を創出

尾道市瀬戸田町(生口島)は、島の約50%が急傾斜になっていて日当たりが良く、瀬戸内海でも指折りの柑橘類の産地で、レモンの生産量は日本一を誇る。そのレモンを用いて菓子を製造・販売する株式会社島ごころ(以下、島ごころ)。

写真1.jpg2009年に発売したレモンケーキ「島ごころ」がヒットし、順調に業績を伸ばした結果、ここ3年で従業員数は2倍近くになった。

「従業員54名のうち、約7割が地元のパート女性従業員で、菓子の製造、梱包、出荷業務に従事しています。男性は、ほぼIターンまたはUターンです」と、専務取締役の奥本寿華氏は話す。

奥本専務自身も、奥本社長と結婚後、瀬戸田町での菓子店開業を機に神戸から移り住んだ。

写真2.jpg

島ごごろの従業員の年齢層は20代から70代と幅広く、女性が81.5%と多数を占める。菓子の包装・箱詰めを担当する60代以上のシニア層は、仕事に対する意欲が非常に高く、仕事が忙しいほど、また新しい仕事が来るほど生き生きとしているそう。島に住むシニア世代の女性は、農業の手伝いや専業主婦として過ごしてきており、組織で働くことに新鮮さと喜びを感じているのだそうだ。30代から40代の子育て世代の従業員も多いが、「島で働くなら、介護施設か『島ごころ』」と、ママたちの間で話題になるほどだという。20代の従業員については、2016年から地元出身者を中心に新卒採用を開始した。また、社内には、夫婦が3組、親子が2組、兄弟が1組と、家族で就業している例もある。

このように、同社はレモンの農商工連携の成功事例であり、瀬戸田町の雇用を創出し、地域振興に貢献しているといえる。

2.経営者・管理職自身も仕事と子育ての両立を実践中で環境整備の旗振り役に

写真3.jpg社長の妻であり、2児の母である奥本専務は、経理、広報・PR、販売管理、知的財産管理といった、菓子製造以外の全てを担当し、多忙な日々を過ごしながら、会社の成長をけん引している。かつては、社長と専務の二人で会社全体を管理してきたが、ここ数年で従業員数も増えたことから、今年度より正式に組織を再編し、管理職を置いた。

5名の管理職のうち、3名が女性で、専務同様、30代から40代の子育て世代だ。

その1人で、統括責任者として活躍中の小林るみ子さんに、管理職としての働き方・従業員の働き方などについて話を聞いた。

小林さんは、以前は歯科衛生士の仕事をしており、週2回、世羅町の歯科医院まで通勤していた。しかし、2010年から「パティスリー・オクモト」に、子育てをしながらパートで勤務するようになり、レモンケーキのヒットとともに、会社の成長を支えてきた。

写真4.jpg現在は、売上予測から菓子の生産計画を立て、工程管理、人員配置、資材の発注、出荷管理までの、いわゆる「生産管理」を担当する。商品数が増えたこと、贈答用、お土産用といったお客様の用途によって、包装紙や箱づめする個数なども変わることから「売上予測」を立てることが複雑になってきた。「予測は難しいですが、当たると喜びを感じます。過去の実績を踏まえるなどして、精度を高めるべく挑戦している最中です」と話す。また、「1週間以内にレモンケーキのラスクを500袋欲しい」といった、急な大量注文に対しても、工程に配する人員を綿密に見直すなどして、残業せずに対応するそうだ。

さらに、参観日などの学校行事や地域のイベントがある日は、生産を止めるという。「主に地元の子育て中の女性が製造部分を担当していますので、多くの従業員が休みを取ります。地域のイベントは織り込んで生産計画を立てます」。

また、奥本専務と小林さんは、毎年2回、全従業員と面談を行う。というのは、4月から子供が進学をするなど、家庭環境が変わる場合があり、働き方が変わる可能性が高い時期だからである。

面談では勤務時間の相談等が多いそうだ。例えば製造部門では、6時〜15時や、9時〜15時に勤務する従業員がいる。小林さん自身も小学生と中学生の子育てと両立するため、8時30分〜16時30分の短時間勤務とし、子供の習い事の送り迎えなどに間に合うように帰宅している。会社としては、短時間であっても管理職としての役割を果たせるなら構わないと考えているそう。

「今は、子供のことがあり、遠方への出張が難しい状況です。しかし、店舗も増え、会社が成長する中で、もっと外に出たいと考えています」と小林さんは言う。今後は家庭環境の変化とともに、活躍の範囲を広げていきたいそうだ。

3.働き方改革の次は個々人の向上心アップと組織の活性化

「当社では、従業員が働きやすい環境整備という点では、働き方改革はほぼ終わっていると考えています。今、その先にあるものが見えてきました。従業員のモチベーションをいかにアップさせるかです」と奥本専務は言う。

前述の通り、各従業員の個別の事情を考慮して、働き方を決めるということは、創業時からずっと続けており、残業もほぼないという。しかし、「従業員の希望に少し寄り添いすぎているのでは」、「チャレンジする意欲が少し欠けている従業員が増えてきているのではないか」というのが現在の課題だそうだ。

「今後の個人面談においては、会社の目標から個人の目標を立てて行動させる、会社の成長と個人の成長がつながるような内容にしたいと考えています。また、評価制度も必要だと思っています」と奥本専務は言う。

写真5.jpg2018年9月、広島駅のekieに直営店「島ごころ SETODA」がオープンし、大手ディスカウントストアの店長経験者や、百貨店の化粧品販売で全国上位を達成した人が入社した。

「レモンケーキを、もみじ饅頭と同じくらいの広島の名菓としたい。そしてレモンケーキと言えば『島ごごろ』となるようにしたい」と話す、モチベーションが高い実力者の活躍に、奥本専務は期待を寄せている。

こうした状況から、転職者が十分に力を発揮できるような環境をつくるとともに、他の従業員もキャリアアップを目指すなど、組織を活性化させたいと奥本専務は考えている。

取材担当者からの一言

「島内では、働き方改革ができていないと、従業員に働いてもらえない」という、奥本専務の言葉が印象的であった。瀬戸田町では少しゆったりと時間が流れていて、17時など定時に帰宅するのが当たり前であり、毎日遅くまで残業して深夜に帰宅、といった風土がそもそもないのだそうだ。神戸の大手企業で働いていた奥本専務はカルチャーショックを受けたという。

その「瀬戸田をもっと誇れる島にしたい」という経営理念のもと、事業の拡大に向けて走っている同社において、約8割を占める女性をはじめとする、従業員の成長は必要不可欠だ。というのは、レモンを使った菓子の製造は、手間がかかる労働集約的なものであり、また高価格帯の菓子を売る販売員も欠かせない。商品開発などを行うのも人だ。やる気と実力を持ったリーダー、つまり管理職が必要になってきている。すでに、パート従業員から3名の女性管理職が生まれている。今後は、学ぶ機会を与え、人事制度などによってやる気を引き出していく仕組を整備していくことが期待される。

●取材日 2018年10月

●取材ご対応者
株式会社島ごころ
専務取締役 奥本 寿華 氏
統括責任者 小林 るみ子 氏