女性活躍優良事例

「増加傾向にある女性歯科医師の力を生かし、磨くための環境を20年前から整備」

医療法人社団湧泉会 ひまわり歯科

  • 医療・福祉
  • 海田町
  • 31〜100
  • 方針・取組体制
  • 両立・継続支援
  • 能力開発・キャリアアップ支援
  • 職場風土
法人名 医療法人社団湧泉会 ひまわり歯科
本社所在地 広島県安芸郡海田町昭和中町2-38
URL http://himawari-sika.com/
業種 医療
事業概要

医療法人社団湧泉会ひまわり歯科は、1999年に安芸郡海田町にて開院。民間の歯科医院としては大規模な診療台20台、従業員数82名を擁し、全身管理、歯周外科、インプラント治療、訪問診療、障害者歯科といった専門性の高い治療も行う。

海田町における地域包括ケアシステムの構築の一環として、2010年には訪問歯科医療、2014年には障害者歯科を開始。海田地域に根差し、地域における病気にならない健康な人づくりのため、食生活支援から医療の向上まで幅広く貢献できる歯科医院を目指して従業員、患者が一丸となり、活動を行っている。
従業員数 82名
女性従業員比率 85.4%
女性管理職比率 84.1%

(2018年8月現在)

院長.jpg理事長 院長 岡本 佳明 氏

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  • 女性歯科医師が増加する傾向に合わせ、職場環境を改善
  • 就業継続しづらい理由を知り、改善する
  • 女性管理職育成の秘訣は“前例にこだわらず挑戦させること”

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1.女性歯科医師が増加する傾向に合わせ、職場環境を改善

2016年12月末時点で医療施設に従事する女性歯科医師は全国的に見ると23.0%(広島県においては24.5%)で、近年全国的に女性歯科医師が増加傾向にある(※1)。特に39歳以下の若い世代においては、およそ4割が女性で、2018年度、歯科医師国家試験に合格した女性も43.0%(※2)に上っている。

図1 歯科医師数と女性比率の変動(全国)

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一方で「女性歯科医師の4人に1人は離職経験者であり、子供を持つ女性歯科医師の離職率は62.6%である(※3)」との調査が日本歯科医師会より発表された。歯科医師は、歯科医師法に基づく1年以上の臨床研修期をはじめ、日々進化を続ける技術や知識の研鑽期間が必要となる。しかし、妊娠や出産、育児といったライフイベントが重なると、キャリアの中断を余儀なくされてしまうことがある。一度離職すると、臨床現場の技術等の変化は大きく、スキルも離職期間が長ければ長いほど低下してしまうため、復職を断念するケースも少なくないという。

医療法人社団湧泉会ひまわり歯科(以下、ひまわり歯科)の岡本佳明理事長兼院長は、開院時よりこういった状況を踏まえ、「優秀な女性歯科医師にはできるだけ離職せず、活躍してもらう必要がある」と危機感を抱き、現状をいかに脱却するか考えていたそうだ。

オペ中の写真.jpgそこで「女性が安心して働き続けることができる職場は誰もが働きやすいのではないか」との考えのもと、戦略的に女性歯科医師を採用し、職場環境を整備してきた(詳細は後述)。

その結果、厚生労働省発表の全国の平均的な歯科診療所の従事者は約4.6名、うち歯科医師は約1.4名(※4)であるのに対し、ひまわり歯科については、従業員80人(うち歯科医師は22名)を超える大規模医院へと成長を遂げた。

現在では、女性歯科医師は22人中10人と約半数が女性を占める。歯科衛生士・技工士といった医療スタッフや事務職員、受付、保育士も含めて、女性従業員比率は84.1%。女性管理職比率も82.3%と、多くの女性が活躍する大規模歯科医院となっている。

図2 ひまわり歯科の組織図

図2組織図_v2.jpg

※1 出典:厚生労働省「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」表10 性、年齢階級別にみた医療施設に従事する歯科医師数
※2 出典:厚生労働省「第111 回歯科医師国家試験の合格発表について」
※3 出典:公益社団法人日本歯科医師会「女性歯科医師の活躍のための環境整備等に関する調査報告」平成28年2月
※4 出典:厚生生労働省「女性歯科医師をとりまく状況」(歯科医師の資質向上等に関する検討会 女性歯科医師の活躍に関するワーキンググループ第4回参考資料2)歯科診療所の従事者数(常勤換算)平成28年2月

2.就業継続しづらい理由を知り、改善する

まず、環境整備の第一歩として、2003年に患者専用の無料託児所を整備した。虫歯は、母の口から子へうつることが多い。母親に自身の歯の治療に専念してもらうために、ひまわり歯科の院内にこの患者専用の託児所を設けたことがきっかけとなり、次第に従業員の子供も無料で預かるようになったという。託児所の運営にあたって、保育士、保健師を採用したが、空き時間には診療室の片付けや器具の洗浄といった資格が必要でない作業を中心に行ってもらうなど、効率的に働けるよう工夫をしたという。

また2010年頃、同院内に「女性活躍推進課」を立ち上げ、女性従業員が就業継続するためには何が必要なのか、検討を始め、翌2011年には異業種間での女性サミットを開催した。ひまわり歯科と他業種2社による意見交換などを定期的に行い、女性活躍推進の活動を進めていった。ひまわり歯科内の託児所では病児保育を行っていないため、病児保育費用を負担するようにしたのもその一環である。

こうして就業継続を支援し、常に最新の技術・知識の習得を続けてもらうための環境整備に努めてきた。その結果、病院の規模が大きくなるにつれ、医師の人数が多くなり、柔軟な勤務が可能になってきた。そこで、本人の状況や希望などに合わせて、勤務回数を決めることとし、月1回といった出勤を認めることが可能となった。ひまわり歯科には岡山や福岡、関西等から月に1、2度のみ出勤する歯科医師や、子供を連れて新幹線通勤をする歯科医師もいるという。

このように世の中の動きより先んじて環境整備を続けていく中で、岡本院長は辞めていく女性従業員には共通のキーワードがあることに気付いたという。それは「仕事と家庭を両立したい」と真剣に考える「真面目」な気持ちだ。育児休業明けには、やる気に溢れて出勤するが、保育園で集団生活に入ったばかりの子供はどうしても体調を崩しやすいため、子の看護のための休みが多くなる。そんな状況が続くと、仕事を休むことに対しても、子供に対しても罪悪感が生じ、心理的な負担が増す。仕事にも子育てにも一人で真面目に向き合うが故に、責任を感じて辞めていくのでは、と岡本院長は考えた。

そこでひまわり歯科では、就業継続の上で家族の理解や協力が大変重要と考え、子供を持つ女性従業員の夫を対象とした「お父さん参観日」を定期的に開催することとした。岡本院長も参加し、従業員の「お父さん」らと話をし、悩みが出てきたら、解決のために何ができるかを共に考えているという。

写真1 お父さん参観日の様子

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「かつては『女性が活躍できる職場にするためには制度や保育園といったハード面さえあれば大丈夫』だと思っていました。しかし、従業員の就業継続に向けて環境整備を続けるうちに自分の考えが誤っていたことに気が付きました。大事なのはハード面だけではなくソフト面です」と岡本院長は語る。

そのソフト面の対策の一つとして、従業員のメンタルコンサルタント(活動中の大井 紀果さんの記事はこちら)を採用し、従業員の心のケアにも対応するための体制を整えている。

3.女性管理職育成の秘訣は前例にこだわらず挑戦させること

ひまわり歯科には3名の副院長がおり、そのうち2名が女性である。女性を管理職に登用することを意識したわけではないが、「能力を持つ人が責任ある立場に就くことは、自然の流れ」という考えが浸透しているそうだ。

岡本院長が重視しているのは従業員がやりたいことを支援し、成功体験を積んでもらうこと。新しい試みを始めたいという従業員に対しては、必要に応じて予算を与え、体制を整備する。新たな試みを実施する環境が整えば従業員は得意分野や興味がある内容であるため、一気に実行まで突き進む。この結果、実現した取組は、健康教室などを行う「矢野の家」、まかない制度、服のリサイクル、巡回型の認知症カフェなど、多数存在する。医療においては、女性副院長が障害者歯科を始めた。

表1 従業員の意見を基に立ち上がった企画や取組

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矢野の家においては、毎月200人もの地域住人が利用する場にまで成長し、地域とのつながりを広げることとなった。「正直な話、最初は矢野の家がうまくいくとは思ってもいませんでした。ですがふたを開けたら、杞憂に終わった。今では女性従業員からのインスピレーションを大事にしています」と岡本院長は教えてくれた。

小さな取組であるとしても、予算や体制といった実施環境を整え、従業員自身がやりたいと思うことを成し遂げさせ、経験や成功体験を積ませる。その繰り返しが管理職になり得る能力開花にもつながっているのかもしれない。

女性活躍の課題に10年以上前から取り組み、一歩先を進むひまわり歯科。2018年4月には「地域連携室」を開設し、地域住人や企業、行政などとのネットワークをさらに広げるために、地域に出向きスポーツ吹矢を用いてのフレイル予防教室(※5)などを開催している。子供の頃から一生を通して、食と栄養に関わる歯の健康を保つことで食べることに困らないような手助けができる歯科医院として、地域に貢献していきたい。そうした思いを実現させるため、ひまわり歯科は日々邁進している。

※5 フレイルとは高齢者の虚弱状態といわれ、加齢とともに心身の活力(例えば筋力や認知機能等)が低下し、生活機能障害、要介護状態、そして死亡などの危険性が高くなった状態。フレイルは、運動・口腔・栄養等を中心とした適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能である。実施拠点として、高齢者の通いの場の充実、認知症カフェの更なる設置等地域交流の促進もある。(厚生労働省より)

写真2 まかないの様子

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取材担当者からの一言

昨今、「コンビニより歯科診療所が多い」と言われている中、厚生労働省は2014年に歯科医師の数を減らすべく歯学部入学の枠を狭め、国家資格の難易度を上げたそうだ。一方、せっかく育てた女性歯科医師がライフイベントで離職してしまうといった現実があることも、今回の取材で知った。歯科業界においても、一般企業と同じような課題に直面する中、約20年も前から女性歯科医師の活躍できる職場づくりを戦略的に目指し、大規模な歯科医院に成長させた岡本院長の先見性と経営手腕に驚かされた。

「女性はライフイベントによる離職の可能性が高いから」と門前払いをするのではなく、逆に「性別に関係なく、働きやすい環境をいかに整えるか」を考え、改革を行い、活躍してもらうことは、医療業界においても必須の取組だろう。

●取材日 2018年8月

●取材ご対応者
医療法人社団湧泉会 ひまわり歯科
理事長 院長 岡本 佳明 氏
メンタルコンサルタント 医事課 大井 紀果 氏