女性活躍事例

「人事評価制度や子育て両立支援環境を見直し、介護業界ならではの人手不足解消へ」

T&TWAMサポート株式会社

  • 医療・福祉
  • 広島市
  • 31〜100
  • 両立・継続支援
  • 評価・処遇
社名 T&TWAMサポート株式会社
所在地 広島市中区八丁堀15-10
URL http://cocokala-gr.jp/
業務内容

T&TWAMサポート株式会社は、介護保険法に基づくデイサービス事業および介護居宅支援事業、クリニック開業コンサルティングを行っている。デイサービスセンターを4店舗、居宅介護支援事業所を1店舗、広島市内と廿日市市内に展開している。

従業員数 86名
女性従業員比率 68.3%
女性管理職比率 33.3%

(2018年8月現在)

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  • 業界全体が抱える人材不足の悩み
  • 女性管理職の経験を踏まえ、いち早く整備された仕事と子育ての両立支援制度
  • 被評価者も納得のいく人事評価制度を整備
  • 非正規従業員の能力開発、女性管理職の増加を目指して

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1.業界全体が抱える人材不足の悩み

T&TWAMサポート株式会社(以下、T&TWAMサポート)は、通所型のデイサービスセンターを4店舗、居宅介護支援事業所(※1)を1店舗、広島市と廿日市市内に展開し、主に老人福祉、介護事業を行っている。

女性従業員比率が介護事業所の全体平均と比べて10.9ポイント低く、男性従業員が比較的多いことが同社の特徴だ(表1)。これは、介護トレーナーに若手の男性従業員が多いことが理由として挙げられ、人材の多様化が進んでいるといえる。介護労働に従事する者の平均年齢は47.4歳(表1)だが、T&TWAMサポートにおいては43.9歳で、平均より3.5歳若い。20代は介護トレーナーが多く、30代の介護トレーナー・介護職員とも少なく、40代は介護職員が多くなっている。また、送迎の運転手や警備は、60代以上の男性従業員が担っている。

また、同社では正規従業員は介護事業所の全体平均とほぼ同じ48.8%(表1)で、約半数を占める非正規従業員が重要な役割を担っている。

表1 介護事業所の全体平均とT&TWAMサポートの従業員構成の比較

女性従業員比率介護労働に従事する者の平均年齢施設系(通所型)の正規従業員比率
介護事業所全体平均(※2) 79.2% 47.4歳 50.2%
T&TWAMサポート 68.3% 43.9歳 48.8%

介護業界では年々人材不足感が高まっており、2017年度の調査では66.6%の事業所が不足感を感じると回答している(図1)。このような状況下、T&TWAMサポートも常に人材を募集している状況であり、離職率の低下、採用数の増加や、今いる人材の能力をより発揮させることなどは重要な課題となっており、それらの取組について話を伺った。

図1 介護サービスに従事する従業員の不足感の経年変化(※2)

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※1 介護を必要としている人が自宅等で適切な生活支援を受けられるよう、各種介護サービスに関する紹介・手続き代行を行うサービス
※2 出典:公益財団法人介護労働安定センター「平成29年度 介護労働実態調査」

2.女性管理職の経験を踏まえ、いち早く整備された仕事と子育ての両立支援制度

介護事業所の全体の平均勤続年数は5.6年(※2)ということであるが、T&TWAMサポートにおいても5.1年であり、ほぼ同様である。

そこで就業継続を支援するため、本人の希望に応じた勤務体制にする等の労働条件の改善に取り組んでいる。かつては、結婚や出産といったライフイベントを機に女性従業員が退職する傾向にあったが、2009年以降はほとんど辞めない状況となった。それは柔軟な時短勤務制度を2009年1月から開始したことの影響が大きい。同社は、通所介護のみであるため、営業時間は8時30分〜17時30分と比較的勤務しやすい時間帯となっている。しかし、さらに子育て中の従業員を支援するため、例えば一時的に10時〜15時、9時〜16時というように、本人の希望により、勤務時間を各事業所で調整し、時短勤務を可能とした。

同社は比較的早い時期に時短制度を整備した。というのも、医療コンサルティング部・財務部の廣田佳代部長自身も、子育てと仕事の両立に苦労した経験から導入を推進したそうだ。廣田部長は同業他社で勤めていた頃、小学生の子供の帰宅時間が終業時間より早いため、子供を会社の事務所に帰宅させて乗り切ったこともあった。30代は子育てのピークであり、仕事でも管理者としての働きが求められていた。その後、デイサービス事業の統括としてT&TWAMサポートに入社してからは、その時の経験も踏まえて、「子育ては一時的なこと。多くの女性従業員に就業継続して活躍してもらいたい」と、いち早く時短制度を導入した。時短勤務で朝と夕方の繁忙時間帯に出勤していないことに対して、時短制度利用者が「申し訳ないと感じる」と申し出たことがあったが、「会社の方針だから、気にする必要はない」と、時短制度の利用を促したそうだ。

さらに、時短制度を活用しても評価を適切に行い、モチベーションを維持し、スキルアップを支援する必要があると感じ、後述する「人事評価制度」も導入した。

その他の両立支援策として、2017年から1時間単位での有給休暇制度を開始した。学校行事やPTAへの参加のために、数時間のみの有給休暇を取得できるようになり、職場・従業員双方にメリットがあり、現場から好評とのことである。

3.被評価者も納得のいく人事評価制度を整備

介護業界においては、仕事の内容に満足し、やりがいを感じる人が多い一方、「賃金」「人事評価・処遇のあり方」「教育訓練・能力開発の在り方」に対する満足度が低くなっている(図2)。

図2 介護労働者の現在の仕事の満足度D.I.

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※2 出典:公益財団法人介護労働安定センター「平成29年度 介護労働実態調査」

T&TWAMサポートにおいても、特に若手が「自分の評価や処遇が不明である」「将来像が描きにくい」と退職してしまう課題を抱えていたため、2010年から人事評価制度の導入に向けた準備を始めた。当初は、市販されている労務の本を参考に、廣田部長が制度を整備し、改訂を重ねたが、社会保険労務士が入社したこともあり、現在の人事部 井本主任が中心となり制度を大幅に変更して整え、2016年7月から本格運用となった。

会社全体の事業計画、職場のビジョンを踏まえて、各人の重点目標項目(何を、いつまでに、目標値、具体的方法、難易度)を年度の「目標管理シート」に記載する。それをもとに被評価者と評価者は、目標項目と難易度の擦り合わせを行い、年に2度の面談で、上司と自身が考える達成度を話し合う。評価は、前述の「目標管理シート」に加え、報連相、向上心、経費削減、協調性といった基本的な項目である「一般基礎シート」、介護職、生活相談員、トレーナー毎の専門的な項目である「専門スキルシート」、地域との関わりを記載する「地域貢献シート」の4つで行われ、計100点で見える化される。

TTwam_1.JPGまた、等級表で、役職ごと、等級・号俸ごとの基本給が明らかになった。一般職から、指導職、管理職へ昇進するための必須資格、全体人数に対する各職種の割合、昇格・降格条件なども明確化されている。これにより、昇格を組織として最大化するために、各事業所を黒字化し、各個人が成長するといった全体のビジョンも共有された。

人事制度をしっかりと整えることで、年齢に関係なく、例えば20代であっても指導職に昇進する例もあり、特に若手が規程に沿ってきちんと評価されていると感じて、やる気につながり、将来像も描きやすくなったそうだ。また、「介護職員処遇改善加算(※3)」を活用し、従業員の給与もアップした。

T&TWAMサポートでは、専業主婦からの就職なども含めた中途入社も多く、さまざまな年齢、バックグラウンドの従業員がいる。人事制度により明確な基準に沿って公平・公正に会社業績への貢献を評価し、モチベーションや定着率の向上へとつなげることが最大の狙いである。

※3 介護サービスの質向上と、介護職員の方の処遇改善を図るため、職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備、資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けることなど、「キャリアパス」を整備するなどした場合に、介護職員1人当たりの賃金改善を行うための加算が行われるもの

4.非正規従業員の能力開発、女性管理職の増加を目指して

T&TWAMサポートでは、介護業界未経験者であっても採用し、働きながら専門資格を取得する際の支援をしたり、職務を経験しながらのスキルアップを奨励している。約半数を占める非正規従業員に対しては、正規従業員への転換の機会を設けたり、賞与を与えたりしている。

このような中、専業主婦から未経験で介護の仕事をはじめ、同社に転職後「デイサービスセンターここから己斐」の管理者として活躍する久渡昌子さんのような例も出てきた(久渡さんの記事はこちら)。

非正規従業員は、重要な労働力である一方、配偶者の扶養内で働くことを希望する場合、「103万の壁」、「106万の壁」などがあり、同社としては悩ましいそうだ。というのは、広島市内において近年時給が上昇傾向であるため、同社も時給を上げた結果、非正規従業員の年間労働時間を減らさざるを得なくなっているからである。2018年から配偶者控除と配偶者特別控除が改正された結果、税制上は年収150万円まで控除は変わらなくなった。しかし、103万円を超えると配偶者の勤務先の家族手当などがもらえない、106万円または130万(※4)を超えると社会保険料の負担がかかるといった理由で、従業員が勤務の調整を希望する例は少なくない。過去は週4、5日勤務していた従業員も、時給が上昇するにつれ、勤務日を週2、3日と減らすケースが出てきた。これにより人手不足を招き、さらに多くの従業員数を確保する必要に迫られ、会社としての負担が増しているという。非正規従業員に対しても働きたいという気持ちがある従業員は、働き続けられるように支援し、促すことが今後の課題のようだ。

※4 配偶者が501人以上の会社に勤務の場合は106万円、500人以下の場合は130万円の年収を超えると社会保険への加入が必要

取材担当者からの一言

T&TWAMサポートの最大の特徴は、厚生労働省の「介護職員処遇改善加算」の活用もあり、明確な等級制度を整え、評価制度、給与制度、昇格・昇進制度の改訂を重ねながら運用されていることである。介護業界においては、人事制度の導入が遅れている側面があるが、人材を育成するシステムを持ち、各組織にあった運用を行い、従業員満足度を高め、離職を防ぎ、介護サービスの質を維持・向上しないと、今後生き残りが難しくなるだろう。

また、介護サービスに従事するのは、非正規従業員が半数以上を占めるという現実の中、「103万の壁」などに阻まれずに本人の希望に応じて働き続けられるけるよう、個社における取組が必要であると感じた。

T&TWAMサポートで管理者として活躍する久渡昌子さんは、「介護の仕事は元専業主婦であっても、上を目指せる仕事」と前向きであった。このような考えで、意欲を持って働く女性を増やすことができたらと感じた。

●取材日 2018年8月

●取材ご対応者
T&TWAMサポート株式会社
医療コンサルティング部/財務部 部長 廣田 佳代 氏
人事部 採用担当 主任 井本 健之 氏