所在地 | 〒736-0002 広島県安芸郡海田町国信1-6-25 |
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企業URL | http://www.toyoseat.jp/ |
事業内容 | 自動車用シートおよび幌の開発・製造 |
従業員数 | 805名(男性718名、女性77名) |
「2017年、弊社は70周年を迎えましたが、6年前に現社長が就任してから、“一世紀経営”を目指して、社員満足度の向上を方針として打ち出しています。そこから長時間労働の是正や有給休暇取得推進が行われ、それが結果的に弊社における働き方改革となっています」と、東洋シート総務部の西川主任は語る。
東洋シートでは平成23年以来、従来のトップダウン経営からチームワーク経営への転換を図っている。平成26年には企業活動の意義を示す「経営大義」を作成。大義の中に「社員満足第一主義を貫く」「温かさと独自性で世界を笑顔にし、子供たちの未来を創造する」といった項目があり、この大義を達成する活動が、AS(*注)向上活動となり、結果的に働き方改革へ結び付いているという。
「実は活動を始めた時も現在も、弊社では“働き方改革”という意識で、取組を行ってきたつもりはないのです。ただ社員の満足を第一に考え、取り組んできた経営改革が、昨今言われている“働き方改革”に重なっただけのことなのです」
取組を開始するに当たって、まず同社では海外工場も含む全社員に対するアンケート調査を実施。「就業規則を知っていますか?」「有給休暇は取りやすいですか?」など、会社風土、仕組み等に関する質問を社員に投げ掛け、その回答を数値化し、問題を洗い出していった。
例えばこのアンケートをきっかけに誕生した試みの一つに、「ふれあいの会」がある。これは「社員間のコミュニケーションが取れていない」という回答を受けて行ったもので、国内の社員800人中、400人が一堂に会し、部署を越えて交流を行った。今後も、毎年、同内容の社員アンケートを実施し、更なる改革を目指している。
こうしたアンケートからも分かるように、東洋シートにおける改革は社員の声を取り上げ、社員の求めに応じた取組となっている。
* ASはAssociate Satisfactionの略。現社長の思いを反映して、Employee(社員)ではなく、 Associate(仲間)の意の単語を使用している。
東洋シートでは、毎年社員アンケートを行いながら、計画的に取組を進めている。同時に「革変」と命名されたチームを編成して、毎回テーマを決めて問題点の解決や、社員自ら経営改革の一環である新規事業と合わせて提案を行っている。このチームは、若手・中堅が混在する10人で構成されているが、半年かけて活動を行うと次の10人へとバトンタッチしていく仕組みとなっている。
「革変」が設けられた背景には、職場の違うメンバーが集まり、職場での問題を提起し解決方法を話し合う中で、“経営者の目線を養ってほしい”というトップの狙いがあったという。総務部の藤谷主務は、「議論を通して社員の創造力を引き出し、それが働きがいとなり、満足度の向上につながればという期待があります」と話すが、その期待は“社員一人ひとりの成長”として実を結んでいるようだ。
実際、チームのメンバーであった藤谷主務も、「チームの話し合いの中で女性活躍の在り方やレクリエーションの有効活用など、いろいろな問題について考える機会がありました。会社を担う一員として広い視野を持てたことはすごく勉強になりました」と、活動の成果を語る。
前出のアンケートから「有給休暇を取れる環境でない」という声に応えて「計画有給休暇制度」を導入し、「評価が明確でない」という声に対しては、個々の目標を設定する「チャレンジシート」を設けるなどの新制度も導入。「計画有給休暇制度」を行うに当たっては、業務の効率化(無駄な業務の洗い出しや省略)や多能工化を図り、生産ラインには連続休暇を導入するなどして、年5日以上の有給休暇を取得できる体制を整えた。その結果、有給休暇消化率は28%(平成26年)から39%(平成28年)に増加。平成29年は45%に目標を設定している。
「チャレンジシート」では社員が上司と一対一の面談を行い個々の目標を設定。過程も含めて、具体的な数値で評価する仕組みを実験的に行っている最中だという。総務部の西川主任は「既に海外の工場でも行っており、社員の声の吸い上げにもつながっています。これは思わぬ成果でした」と、取組途中ではあるが、「チャレンジシート」から生まれた相乗効果を評価する。
取組を円滑に進めていくには、様々な苦労や工夫もあるだろう。一連の取組を進めてきた西川主任は、「とにかく軸となるのは、経営大義にある“社員満足”に沿っているかどうかです。ここがぶれないように活動を進めてきました。他社の事例も一部参考にしましたが、そのまま取り入れるのではなく、自社のスタイルに合わせました」と留意点について言及してくれた。前述のチャレンジシートを作る際も、まず役職ごとの役割やスキルを明確にした上で、他社の評価基準を参考に、東洋シート独自の評価スタイルを確立していったそうだ。
新しい改革を進めようとするとき、「どうしても変化に懐疑的になる人や、過去のやり方にとらわれてしまう人が一定数はいます。でもそれは改革の重要性が十分に伝わってないからだと私たちは考えています。大切なのは粘り強く伝えていくことで、マネージメントを怠らないことです」と語る藤谷主務。上司が面談を行うことや「改善報告会」を継続的に行うこと、「社内報」なども活用して繰り返し制度の必要性を訴えていくことが有効だと同社では考えている。
経営企画室の松田さんは「残業削減を意識しはじめてから、職場のチームワークがアップしたと思います。みんなでランチ会を楽しむなど、ゆとりと一体感が芽生えました」と感想を語ってくれた。
育休を1年取って職場復帰した野津さんは、「上司が率先して仕事の標準化を行ってくれるので、以前よりも有給休暇が取りやすくなりました。弊社は以前から女性の就業継続に積極的な会社です。育休後の復職率もほぼ100%です。子育ての大変さを理解してくれている先輩がたくさんいるので、休みが必要な時のカバー体制も万全で安心して働けます」と働きやすい職場環境を評価している。
同社では、野津さんのような女性社員がさらにキャリアアップして活躍の領域を広げていくことが、これからの課題でもあるという。
最後に、総務部の小林部長が力強いメッセージをくれた。
「女性活躍や高齢者雇用、職場改善など、取り組まなければならないことはまだまだあります。でもいきなり100%を目指すのではなく、コミュニケーションを取りながら一歩ずつ進めていくことが大切です。弊社では社員一人ひとりが経営者の視点を養いながら、広い視野で改革を進めていますが、個々の社員の挑戦が、会社だけでなく、ひいては社会の未来も変えるのではないでしょうか」