働き方改革事例

「枠」にとらわれない柔軟な働き方で長く働ける職場づくりと、
生産性を高めていく基盤づくり

松田鉄工株式会社

  • 製造業
  • 東広島市
  • 31〜100
  • entrydatajireikaikaku2-01
  • entrydatajireikaikaku2-03
  • entrydatajireikaikaku2-04
  • entrydatajireikaikaku2-08
認定マーク
所在地 〒739-0264 東広島市志和町七条椛坂1700
URL http://www.mtd-co.jp
業務内容 自動車部品の製造
従業員数 46名(男性28名、女性18名)

(2018年2月現在)

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  • 従業員の声を吸い上げる「快適職場委員会」等の設置
  • 多様な働き方を応援する柔軟な勤務体制や、働くチャンスを拡大する70歳までの定年延長
  • 子育てと仕事の両立にも配慮した時間単位の有給休暇制度や、職場内の一角を利用したキッズルーム
  • 従業員の自信とやる気を生み出す業務改善(直ぐにできることから始めて成果を見せる)

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働きやすい職場づくりで人材定着

今いる従業員に長く働いてもらうために

type1_mtd_2.jpg松田鉄工株式会社の代表取締役の松田洋一氏は、同社が目指す“自立型企業”を実現するための重要な要素は、コア技術だけでなく“人”であると考えている。「中小企業は大企業のように、定期的にトップが交代するわけではありません。組織として活性化を図っていくには、従業員の声をしっかりと聞きながら、企業そのものが変わる努力をしなければなりません」と、会社を経営する上でのビジョンを語るが、そうした姿勢は同社の働き方改革にも色濃く反映されている。


type1_mtd_3.jpg東広島市にある同社は、自社のコア技術を生かした自動車部品製造を手がけており、自動車メーカーのサプライヤー企業として成長をしてきた。近年では、業務改善を図りながら自動車部品以外にも積極的に事業展開しており、特定の業界に依存しない「小さくとも魅力ある自立型企業」を目指している。

人材確保は経営上の大きな経営課題となっているものづくり業界。同社でも同様の課題を抱えてはいるものの、松田氏は「人が来てくれる魅力のある企業になるためには、そもそも現在働いてくれている従業員が働きやすい職場でなければならない」という強い意志のもと、「働き方」について従業員から声が上がれば、それまでの会社のルールにとらわれず柔軟に対応することで、会社そのものを変えようという努力を続けている。


働き方改革の方向性を決めるのは、従業員の声

従業員の事情に柔軟に対応しながら、従業員が働きやすい職場づくりを

従業員が働きやすい取組を導入するにあたって、松田氏は「当社における取組は、快適職場委員会などで従業員の声をしっかりと聴いた中で、具体的な取組内容を決めている」という。
「快適職場委員会」とは、独身従業員、子育て中の従業員、60歳代の従業員等、様々な立場の従業員がメンバーとなり、自由に意見を出し合う場である。経営陣はこうした場を通じて、“制度ありき”ではなく、「会社に本当に求めていることは何か」といった従業員のニーズを的確に把握し、様々な取組を進めていった。
これまでの取組の中でも、特に従業員から好評を得ているのは、①柔軟な働き方の支援、②時間有給休暇、③キッズルーム であるという。

従業員の「柔軟な働き方」を支援するため、「高齢で体力に合わせて働きたい」、「介護がある」、「子育てがある」等の事情に応じて、勤務日や勤務時間を調整する取組を行っている。例えば、高齢の従業員に対しては、長く働けるように定年を70歳までに延長した上で、フルタイム勤務だけでなく、体への負担を考えて週3日だけ働くことができるなど、各自が自分に合った働き方で就業できるよう配慮している。また、長期療養中の従業員に対しては、復帰後しばらくは短時間勤務を取り入れて通院と仕事を両立できるよう配慮し、徐々に通常通りの勤務形態で仕事に戻れるようサポートしている。

また、同社では、1時間単位で有給休暇を取得できる「時間有給休暇制度」を取り入れている。以前は、半日単位の取得であったため、1時間だけの用事でも半日休まなければならなかったが、時間有給休暇を導入してからは、「必要な時間だけ無駄なく休みの制度を使える」「短い時間であれば、周囲への気兼ねが少ないため利用しやすい」といった従業員から喜びの声があがったそうだ。制度導入から30年以上経った現在では、制度利用が定着しており、子どもの送迎、市役所への各種手続きや通院等、個々の事情に応じて幅広い用事のために利用されているという。


type1_mtd_4.jpg同社には、子どもを持つ従業員のために「キッズルーム」を設けている。これは、従業員の子どもで小学校に通う児童が利用することのできる社屋内スペースである。食堂の一角に畳コーナーを設けたそのスペースにオモチャや本が置かれ、子どもたちはここで遊んだり宿題をしたりと、思い思いの時間を過ごすことができる。事務所モニターで子どもの様子を確認しながら仕事が出来るので、従業員は安心して働くことができるという。一時期は子育て世代の減少に伴い中断したこともあったが、従業員のニーズに応えて復活したのことだ。


type1_mtd_5.jpg総務担当の高次さんは、「キッズルームを利用する従業員からは、身近で見守れるので安心であるとか、我が社は祝日が勤務日となることもあるのですが、祝日の度に休まなくてよくなった、などの声を聞いています」と、利用者の反応を教えてくれた。
こうした様々な取組を進めるに際しては、「最初から完璧を目指さず、まずはやってみて、だんだん良くしていけばいい。工夫次第でお金をかけずにできることはたくさんある」という姿勢でのぞんでいるという。
「こうした取組を進めたことにより、人材定着に効果があったと感じています。従業員は、会社が働きやすい職場づくりに取り組んでいることを知っていますから、勤務条件が合わないといった悩みを抱えている段階で気軽に相談してくれます。会社としても、せっかく育った従業員に辞められるのは損失ですから、会社としてできることがあれば柔軟に対応しています。その結果、従業員の労働意欲も高まったと感じています」と語る。


生産性を落とさない基盤づくり

直ぐにできることから業務改善を図り、成果を見せることで、従業員の自信とやる気を生み出す

type1_mtd_6.jpg制度利用の定着を進める一方、同社では企業としての生産性を落とすことがないよう、業務改善を図りながら人材育成を行う取組にも注力している。
同社では、自動車部品以外にも積極的に事業展開できるよう、大量生産だけでなく少量生産にも対応できる「柔軟なマトリックス生産体制」の構築を図っているのだが、そのためには、業務のムダをなくし、効率化を進めることが不可欠であった。
そこで約5年前、全課長クラスから成るプロジェクトチームを立ち上げ、従業員への改善意識を高めるために、従業員全員参画のもとで3S(整理・整頓・清掃)活動を展開。また、工程フローやレイアウト、各種機械の稼働率等の現状調査を基にした、「即改善」できるムダの排除や、レイアウト変更、1人が複数工程を受けもつ多能工化を推進した。
社長出席のもとでプロジェクトチームによる報告会を毎月開催して、各現場からの改善状況の報告を求め、前述のような具体的な取組を推し進めるとともに、現場の従業員にも粘り強く改善の必要性を問いかけ続けた結果、機械の空き時間と人の手持ち時間という余裕が生まれてきた。このことがメンバーと現場の雰囲気を一変させ、従業員の自信とやる気を大きく高めることにつながった。
改善活動が定着した現在では、売上総利益率を高めていくため、会社があらかじめ個々の業務に仮の値段を付けて、売り上げをグラフ化し、パソコンで従業員全員が見える「仕事の見える化」を試みている。従業員は仮の値段で自身の仕事の成果を確認できるため、生産性に関する感覚が自然と研ぎ澄まされているという。こうしたことから、低迷していた会社の業績も好転し始めてきているそうだ。


type1_mtd_7.jpg長く働ける職場づくりと、生産性を落とさない基盤づくりを両輪として、魅力ある会社を築くため、様々なことに取り組んでいる同社であるが、松田氏は、「当社はものづくり企業ですので、技能を要するさまざまな仕事があります。新しい人材が加わったり、多能工化を図ったりする場合は、技能伝承も進めていかねばなりません。しかしそうなると、通常業務にプラスして、教育する時間が必要となります。会社としては、継続的に、仕事の進め方を見直し、無駄な業務をなくすアドバイスをして、現場の従業員のそうした時間を確保できるようにしたい」と、今後も意欲的に取り組みを進めていきたいと考えている。

最後にこれから働き方改革に取り組む企業へメッセージを求めたところ、「同業グループの中でも、こうした取組に興味を示される方と、そうでない方がいらっしゃいます。興味を示されない方は、おそらく今忙しくてそれどころでないというのが、正直なところでしょう。でも働き方改革は、現在のことだけでなく、未来に向けた取組でもあります。明日のために、できることからでも始めることが、5年先、10年先の企業の在り方にかかわってくるのではないでしょうか」という言葉を送ってくれた。