男性育休取得者事例

株式会社サタケ 冨重さん

食品事業本部 品質管理室 室長 渡部 美穂子さん(写真左)
食品事業本部 品質管理室 主務 冨重 将二さん (写真右)
人事部 ダイバーシティ推進室 林 千晶さん

上司の理解と周囲の協力に感謝し、家族の新たなステージを夫婦そろって歩む喜びを感じて

1896年に創業し、米、麦、とうもろこしを中心に、食品全般に関わる加工機械や食品の製造販売を行う株式会社サタケ(以下、サタケ)。

サタケの男性育児休業(以下、男性育休)推進の取組は、今から15年以上前、2005年に次世代育成支援対策推進法(以下、次世代法)(※1)が施行されたことを機に、「毎年1名以上の男性育休取得者を出す」という目標を掲げてスタートしたのだそうだ。

サタケでは、法定の育児休業制度に加え、出産、育児期に利用できるよう独自の休暇制度を設けている。

特別有休休暇 子の出生日から10日以内の暦日連続3日間
ストック有休休暇 本来2年間の時効によって消滅する未消化の有休を10日間ストックし、出産や育児等の際に使用できる制度。妻の産後56日以内の期間中に育児参加のために休業する場合、期間中1回、10日を限度として1連続期間利用することができる。

男性育休をためらう従業員の中には、「家計の収入を減らしたくない」と考える人もいるが、有給休暇を充実させ、有効に活用できる制度とすることで、こうした心配をすることなく、育休を取得できるよう促している。当制度を利用する従業員は、約90%と高いのだそうだ。

一般的に、男性育休推進における主な課題の1つに、「職場が男性育休制度を取得しづらい雰囲気がある」ことが挙げられるが、同社では、取組を始めた当初から旗振り役を務める木谷博郁人事部長(当時:現サタケ・ビジネス・サポート株式会社 代表取締役社長)をはじめ、トップや管理職が、積極的に風土醸成に取り組んできたこともあり、そのような雰囲気は全くないそうだ。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 厚生労働省「平成30年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」労働者調査 結果の概要を有限責任監査法人トーマツで加工

木谷氏は、男性育休推進のキーパーソンとして、自らポスターを制作して社内各所やイントラネットに掲載したり、社内や営業所を回っては、従業員やその上司に対して、積極的に男性育休取得を呼び掛ける等の行動に取り組んできており、こうした地道な取組が同社の風土醸成にもつながっているといえる。

今回の取材では、食品事業本部品質管理室 主務 冨重将二さん(以下、冨重さん)と、その上司である渡部美穂子さん(以下、渡部さん)に、男性育休を推進する上での鍵となる「休暇をとりやすい職場の雰囲気」と「上司の理解」について話を伺い、男性育休の推進に取り組む上での具体的な行動につなげるヒントを探った。

Q. 育休を取得しようと思ったきっかけについてお聞かせください。

冨重さん 妊娠初期の段階で、多胎児ということが分かり、2021年2月頃、東広島市主催の多胎児妊娠中・育児中の母親向けコミュニティ「さくらんぼ」(※2)で、妻が「多胎児育児は特に負担が大きく、夫の協力が不可欠。夫にも育休をとってもらった方が良い」というアドバイスを受けました。それをきっかけに、育休について夫婦で話し合ったところから育休取得を考えるようになり、特に出産後の1~2カ月が大変だと聞いたため、出産予定日から2カ月間取得する計画を立てました。

Q. 取得時期や期間について、誰に、またどの部署に相談されましたか。

冨重さん 妻の話を受け、所属長である渡部さんに、出産予定日の5カ月前に相談しました。快く受け入れてもらい、取得時期や期間についても、希望通りとなりました。

Q. 冨重さんから育休について相談を受けた際、上司としてどのようなことをお考えになり、具体的にどのような対応をされたか、お聞かせください。

渡部さん 出産は女性にしかできませんが、育児は夫婦が協力して行う方が良いと私自身は考えています。個人的には大変うれしく思いましたし、ご本人が心置きなく取れるよう配慮したつもりです。取得に向け、担当業務の一時的な見直しなどを冨重さんと一緒に検討し、調整しました。
また、経営層である当社の事業本部長 古賀取締役は、男性育休取得について、大変理解があり、協力的で、経営層から応援があったこともとても心強かったのではないでしょうか。
当部は事務系の女性従業員が約5割程度と多く、育休取得が定着しています。特に女性は、子供を育てる大変さをよく理解しているため、「困ったときはお互いさま」という気持ちも大きく、課員や関連部門の同僚メンバーはとても協力的でしたので、冨重さんも、気兼ねなく取得できたのではないかと思います。

Q. 「担当業務の一時的な見直し」に関連して、代替人員の配置や課内メンバーへのフォロー等について、もう少しくわしくお聞かせください。

渡部さん 人員に余裕があるという状況ではありませんでしたが、補填は行わずに対応しました。課員は非常に協力的で、大変助かりました。
これは事業部全体の方針なのですが、普段から、業務の標準化やマニュアル化を進めており、仕事が属人化することがないよう、定期的に課内業務のジョブローテーションも行っています。また、毎日行う朝ミーティングや、週1回の課内会議で必要な情報をスピーディーに共有化し、特定のメンバーしか知らない情報や業務を作らないよう工夫しています。

Q. 育休中のご家庭の様子について、お聞かせください。

冨重さん 出産前に、夫婦で役割分担について話し合いました。特に大変なミルクとおむつ交換は、私が主に深夜、妻が早朝と分担し、日中はできる方がやるという基本ルールを作りました。その他、家の清掃全般を私が担当しました。育児は大変とは聞いていたものの、本当に大変でした(笑)。ただ、育休中に子供の日々の成長を間近で見ることができ、楽しくもあったと、今実感しています。
多胎児ならではの悩みですが、一人で子供2人を連れて外出するのは、行動が大きく制限され、大変です。例えば買い物に行っても、ベビーカーが大きく、通路の狭い店舗には入ることができません。一人で2人を抱えるのも難しく、荷物も常に2人分で、一人では持ちきれないため、夫婦そろって行動しなければならないことが多くあります。
復職した今も、子育ての状況は大きく変わっていないため、もう少し育休を長く取れば良かったと夫婦で話しています。

Q. 育休開始前に準備したことがあれば、教えてください。

冨重さん 個々の細かい業務の引き継ぎに不足がないかどうかが、一番心配でした。長期案件については、一覧表や経緯書を作成し、引き継ぎ漏れがないよう心掛けました。しかし、きちんと引き継いだつもりでも不足もあり、「もっとちゃんと引き継ぎをしておけば良かった」と反省することもありました。
課のメンバーは、「何でも任せて」と快く送り出してくれましたし、育休中、職場から業務に関する細かい問合せなどもなく、育児に専念することができました。

Q. 育休復帰後、生活に変化はありましたか?

冨重さん 育休復帰後2週間くらいは、ペースをつかむのに苦労しましたが、時短勤務を利用することなく、通常勤務(8時間)に戻りました。もともと、残業は多くありませんでしたが、子育て中の夕方の10分、15分はとても貴重ですので、就業時間内に業務を終わらせて帰宅できるよう、スケジュール管理を徹底するようになりました。

Q. 育休取得前後で、会社や仕事に対する意識の変化はありましたか。

冨重さん 育休取得前にやり残したり、抜けていたりした業務があったのですが、復帰後に確認すると、課のメンバーが代わりにフォローしてくれていました。周りの方々に気にかけてもらっていることに改めて気がつきましたし、周囲のサポートに対し、より一層感謝するようになりました。

Q. 渡部さんからみて、育休取得前後で冨重さんに変化はありましたか。

渡部さん 冨重さんはより責任感が強くなったと思います。また、育休を取得したからこそ、子育ての大変さが理解できるということもあるのだと思います。「お互いさま」と課員の人たちへの配慮も以前よりも増しているように感じます。先日、お子さんに初めてお目にかかりましたが、とっても可愛らしかったです。
お父さんとして、頑張る理由にもなっているようで、会社にとっても彼にとっても良い結果につながっていると思います。

Q. ご自身の経験を踏まえ、今後育休を取得される男性従業員にメッセージをお願いします。

冨重さん 男性も育休を堂々と取得してください、と伝えたいです。私は、部内における長期間の男性育休取得第1号でしたが、「取得しにくい雰囲気」は全く感じませんでした。しかし、職場や所属長の理解や協力は不可欠ですので、日頃からコミュニケーションを密に取り、相談しやすい雰囲気づくりや、業務内容を詳細に報告することなどを心掛けることが重要だと思います。

Q. 続いて、人事部ダイバーシティ推進室の林さんにお尋ねします。男性育休に対する「上司の理解」を促すために、貴社で実施されている取組や効果的だった取組などがあれば、お教えください。

林さん 「育休推進ポスター」活動や、人事部長による声掛けなどが主な取組です。
また、経営層が子育て世代の社員に積極的に声を掛けて、会社としてバックアップする姿勢を示すことは風土醸成に大きく影響していると思います。人事部からも、制度概要や取得率、取得期間の状況について周知を行うため、定期的にアナウンスしています。

Q. 社内で、さらに男性育休取得を推進していくための課題があればお教えください。

林さん 当社では、働き方改革と併せて、男性育休取得にも全社挙げて取り組んでおり、男性の育休取得は増加していますがまだまだの状況です。
理由として、そもそも制度について知らないという従業員が多いことが挙げられます。来年(2022年4月)には育児・介護休業法の改正もありますし、育休についてより分かりやすくアナウンスすることが必要だと感じています。
また、男性従業員の中には、「男性が育児で何ができるの?役に立つの?」という疑問を持ったり、ご家族が「夫まで休む必要はない」と思っているケースもあるようです。「男性が育休を取るなんてすごい!」と大多数の人が思っているうちは、まだまだハードルが高いのかもしれません。

当社の男性育休取得実績は30名余りです。業務内容にもよりますが、営業部門・開発部門などでは、本人が長期不在になることに対して遠慮や不安があるのか、1週間程度の育休が大半です。今後は、業務の属人化をなくすなど仕組みづくりを進め、男女問わず当たり前に半年間以上の育休取得ができるような雰囲気づくり、時短勤務や在宅勤務等を利用するなどして、男女が協力して子育てできる環境づくりに取り組む必要があります。

Q. 男女がともに仕事と家庭を両立しながら職場で活躍できる環境づくりが進めば、中長期的な視点で女性管理職登用にもつながると思いますが、その点についてどのようにお考えでしょうか。

渡部さん 私自身、新卒で当社に入社し、出産を機に一度退職しましたが、10年間の専業主婦期間を経て再入社し、管理職となりました。子育ては本当に大変でしたので、仕事と子育てを両立しながら頑張っていらっしゃる方はすごいと思います。
以前は、主に女性が家事や子育てを担うのが一般的だったため、仕事を辞めざるを得ないという状況でしたが、女性も当たり前に働き続け、キャリアアップも目指す中で、夫婦が協力していかなければなりません。いろいろな考えがあると思いますが、その時々で、多くの選択が可能な環境を整え、多様な働き方を許容する雰囲気が醸成されると良いですよね。

(※1)次世代育成支援対策推進法
次世代育成支援を目的として、2005年に施行された法律。労働者数301人以上の企業において、仕事と子育ての両立を図るために必要な雇用環境の整備等に関して「一般事業主行動計画」の策定・届出が義務付けられた。2015年には改正次世代法が施行され、労働者数が101人以上の企業において、行動計画の策定・届出が義務付けられた。

(※2)「さくらんぼ」
https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kodomomirai/1/2/25701.html