男性育休取得者事例

令和3年度男性育休取得者対談

男性の育児休業取得は、育児だけでなくキャリアや家庭を見直す良いきっかけに

令和2年度の広島県内企業の男性育児休業取得率は18.2%(広島県調査。調査対象年度:令和2年度)で、前年度から5.2ポイント上昇するなど、少しずつ社会に浸透しつつあります。一方、男性の育児休業取得期間は「1週間未満」が約4割と最も多く、「1カ月未満」の割合は約7割(図)と、女性の育児休業取得期間と比較して短期間の取得にとどまっているのが現状です。

出典:広島県商工労働局 「令和3年度 広島県職場環境実態調査結果」

男性の育児休業(以下、「男性育休」)を推進する上では、「育児休業(以下、「育休」)制度への認知が低い」「職場に取りづらい雰囲気がある」といった課題が挙げられています。こうした課題に対応し、男性が育休を取得しやすい職場環境の整備に向け、令和4年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行される予定です。従業員に対し、個別に育休制度の周知や取得の意向確認を行うことなどを企業に求めるもので、男性育休のさらなる浸透に向けた具体的なアクションとなることが期待されています。

また、共働き家庭において、女性が意欲を持ってその力を発揮し安心して働き続けるためには、夫の家事・育児への参画が欠かせません。夫婦で「どうすれば、仕事も家庭も充実させることができるか」を互いにフラットな立場で考え、それぞれの意識を変え、役割を分担していくことがポイントです。
今回は、広島県内に事業所を構え、1カ月以上の男性育休の取得実績がある企業にご協力頂き、夫婦が共に仕事と家庭を両立している男性育休取得者3人に、オンライン座談会を実施し、育休取得の前と後、ご夫婦の役割などの本音を伺いました。

医療法人微風会 ビハーラ花の里病院 庶務課 藤井さん
医療法人微風会 ビハーラ花の里病院 庶務課 藤井さん

二児の父。2020年、第一子出産日の次月から3カ月間の育休を取得。

イオンリテール株式会社 中四国カンパニー 黒本さん
イオンリテール株式会社 中四国カンパニー 黒本さん

一児の父。2021年、第一子出産月から6か月(予定)の育休を取得中(取材時)。

広島大学大学院先進理工系科学研究科 奥田さん
広島大学大学院先進理工系科学研究科 奥田さん

一児の父。2019年、第一子出産日の次月から1カ月間の育休を取得。

Q. 育休を取得したきっかけについて教えてください。

藤井さん 第一子が生まれたときは育休を取ることは考えておらず、「妻が育休を取るから大丈夫かな」と軽く考えていました。しかし、実際に育児が始まると予想より大変でした。例えば、夜は寝たと思ったら子どもが泣き出すなど、ゆっくり眠ることもできない。妻は本当に大変そうで、追い詰められていました。そのようなこともあり、第一子のときの教訓を生かして、第二子のときは育休を取ろうと決めていました。

黒本さん うちは妻の上司が夫婦で1年間の育休を取得した前例があり、身近にロールモデルがいたことが大きかったです。さらに私たちは互いの実家も遠方だったため、夫婦で話し合って、力を合わせて育児をしようと決めました。もともと、社内で育休を取得する男性は珍しくない印象を持っていたので、特別なことという感じはありませんでした。

奥田さん 妊娠中の妻が、育児についてインターネットなどで調べていたことを一緒に見て、これは相当大変そうだなという思いがあり、できれば2人で育児に専念する期間をとりたいと考え、取得を決めました。

Q. 実際、育休はスムーズに取得できましたか。

藤井さん 私が職場で初の男性育休取得者だったため、取得の希望を誰に切り出していいものか悩みましたが、まずは取得する半年前に上司に相談しました。相談当初はスムーズに取れそうだと感じていましたが、時期が近づくにつれて、男性が育休を取得することに対して、職場に理解してもらう難しさを感じました。ただ、制度としてあるわけですし、時代の流れも変わりつつあります。職場のメンバーへの感謝の気持ちを忘れず、強い意志を持って育休に入りました。

奥田さん こちらは、取得前例もあったので育休取得自体はスムーズにできました。ただ、1か月よりもう少し長く取りたいという気持ちはありつつ、踏み込めなかったですね。1年の中で、業務の繁忙度に波があり、育休を取得した3月は時期的に取得しやすかったのですが、4月以降も続けてとなると、業務の調整がかなり難しいと感じました。ただ、もっと前向きに長期間の育休に向けてアクションできたら良かったのかなとは思います。

黒本さん 私は、妻の妊娠が分かった時点で半年間育休を取ることを決め、取得予定の半年前に上司に伝えました。会社の人事面で配慮があり、当社で年2回実施する定期人事異動にあわせて後任を配置していただき、引継もスムーズにできました。コロナ禍で里帰り出産も難しかったため、出産予定日の1カ月前くらいからは、部下に仕事を任せつつ、平日は有給休暇などを利用して休ませてもらい、土日だけ勤務するといった柔軟な働き方もさせてもらいました。周囲の協力が本当にありがたかったです。

Q. 育休中の家庭内での役割や、育休中のエピソードについてお聞かせください。

藤井さん うちは共働きのため、家事は結婚当初から分担を決めず、互いにできるときにできることをやるようにしていました。育休中は、主に長女の世話を担当しましたが、長女と一緒に過ごす時間がとても楽しかったですね。子供と共有する時間が増えたことでいろいろな発見がありましたし、コミュニケーションもよく取れるようになりました。前は一緒に寝てくれなかったのに、同じ布団で寝てくれるようになりました(笑)。

奥田さん それはうれしいですね。うちは家事も育児も、その時々にできることを、それぞれがやるスタイルです。育休中もそれは変わらず、夫婦で分担しました。育休を取ったおかげで子供の日々の成長を肌で感じられたことが本当にうれしかったです。赤ちゃんにとって眠いことは不快で、不快だから泣くということが分かったときはとても新鮮で。そんな風に子供のリアクション一つひとつに毎日驚きや発見がありました。大変でしたが、振り返ると楽しい思い出と貴重な経験ばかりです。

黒本さん わが家も育休中、特に役割は決めずに二人で家事をこなしています。首が据わった日や、初めて寝返りを打った瞬間に立ち会えた日、一晩寝て起きたら「重くなったな」と感じることもあったりして。日々の成長を間近で見て実感できることが本当に幸せで、つらいと感じることはあまりないですね。特に大変な最初の1カ月を妻と共有したことで、子育ての大変さを同じレベルで理解することができていることも大きいです。

Q. 育休取得前後で、会社や仕事に対して意識の変化はありましたか?

藤井さん もともと仕事は面白くて、育休復帰後も同じ気持ちで取り組んでいるので特にモチベーションの変化はありません。働き方の面では、育休取得前と比べると、子供の世話をするため早く帰宅できるように、時間の使い方や効率的な仕事のやり方を工夫するようになったと思います。

奥田さん 職場に対しては、快く育休を取らせてもらってとにかく感謝しています。仕事と家庭を両立する上で、時間の上手な使い方は、今でも模索しています。育休を取得するまで分からなかったのですが、職種的に、業務内容だけでなく裁量労働的な働き方も含めて全く性差はありません。だからこそ、仕事と家庭を両立している女性教員はとても大変だという気付きもありました。

Q. これから育休の取得対象となる方に対して、どのようなアドバイスを送りますか。

藤井さん 取るべきと言いたいですね。「妻が取るから夫は取らなくていいのでは」と言われるかもしれないですが、育休は育児だけが目的ではないと思っています。妻にも休みは必要で、妻がちゃんと休む時間をつくるためには、二人で取ることが大事ではないでしょうか。

黒本さん 育休制度の概要や、育休給付金の額、取得可能期間など、意外と知らないことも多く、育休を取得する側も、事前にきちんと知識を深めることが重要だと思います。業務の引継については、自分の代わりに仕事をしてくれる人は必ずいるので、後任を配置できるタイミングで、時間に余裕をもって相談しておくことがポイントだと思います。

Q. ご自身の経験も踏まえ、男性が当たり前に育休を取得できるようになるためには、何が必要でしょうか。

黒本さん 社内で「育休を取ると昇進が遅れてしまうのでは」と心配する声を聞くことがあります。「育休を取得する=仕事に対する意欲が低い」と思われるのでは、ということかもしれませんが、決してそんなことはないと私は考えます。復職後の働きぶりで評価してもらいたいですし、そうした職場の風土を変えるアクションが必要だと思います。育休取得と処遇がきちんと切り分けられているという認識が広まると、男性が育休取得により前向きになれるのかもしれません。
また、弊社も含めて、早朝や深夜勤務など変則勤務が多い業種では、子供が小さい間はそうした働き方が難しいと思っています。性別にかかわらず、ライフイベントに応じた柔軟な働き方ができるようになればいいと思います。

藤井さん 会社側には、一時的に人員の補充を考えていただけると良いと思います。育休を取得する側も気兼ねなく取ることができますし、復帰の際もスムーズに元の業務に戻れるという安心感があります。

Q. 率直なお気持ちとして、育休を取得して良かったと感じることはどんなことですか。

奥田さん 育休を取らなければ分からなかったことがたくさんありました。一日中、子供に付きっきりで面倒を見ることがどれだけ大変かということが実感できているので、私が復職した後も、一人で子供の世話をしている妻の気持ちを理解できることは、妻の安心感につながったと思います。

藤井さん 妻と過ごす時間を多く持てたことで、妻が考えていることを、前よりも妻と同じ目線で理解できるようになりました。何より、妻の機嫌が良くなりましたね(笑)。育休を取得したおかげで、育児の大変さも理解でき、妻に対して感謝の気持ちも増え、育休取得が家庭をより円満にしてくれたと感じます。

黒本さん 私も妻と子供と長い時間一緒に過ごせたことですね。育休を取らなければ、妻から子供の成長の話を聞くだけだったと思いますが、二人で一緒に見届けているから分からないことは相談できる。互いに助け合いながら育児ができることが幸せです。育休は育児だけではなく、それまでの働き方や家族との関わり方を見直すきっかけになるのかもしれません。

Q. 共働き世帯のご夫婦のあり方について、どのようにお考えですか。

藤井さん 妻は働いている方が生き生きとしているので、これからも働き続けてほしいと思っています。今は二人とも復職していますが、家事負担は妻の方が多くなりがちです。私自身がもっと努力できる部分もあり、時間の使い方も工夫できると思っているので、より一層妻と協力していけたらと思います。

奥田さん 周りのサポートを受けながら、活用できる制度は活用することが大事だと思います。わが家は妻の実家が近く、保育園の送迎や食事も親にサポートしてもらえています。また、家事を効率的にするための便利アイテムといわれるものを色々試してみたりと、工夫もしています。一方で、家事は分担しているものの、掃除や洗濯以外の“名もなき家事”の多くは妻が担ってくれていて、とてもありがたいと思いつつ、妻の負担の方が大きいので、もっと家庭での役割を増やしていきたいですね。

黒本さん 夫と妻の立ち位置は常に平等で、できることは同じだから互いに助け合えばいいと考えています。よく話をして、「やってくれたらいいのに」ではなく「お互いがやる」と互いに思えるようになるといいのではないでしょうか。

【座談会を終えて取材者より】
子供の誕生は人生の大きなライフイベントのひとつ。男性にとっても女性にとっても新たなチャレンジである育児に、パートナーと一緒に取り組むことで、自身の役割を再認識し、家族との関係や自身のワークライフバランスを改めて見直す良いきっかけになるのだと感じた。
今回の座談会を通じて、男性にとっても、育休取得はとてもポジティブな経験だったいう印象を受けた。今後、男性育休を組織に浸透させるには、研修等を通じて管理職の理解を促すなど、取得しやすい職場風土の醸成や、性別にかかわらず、育児期を通じて働き方を柔軟にできる制度の整備や運用が欠かせない。そして、男女共に育休のメリットを組織の中で伝播しつつ、育休取得経験者が管理職へとステップアップしていくと、働き方も含めて変わっていくのではと感じた。