[特集]全国の女性活躍先進事例

「多様性はイノベーションを生み出す」女性活躍推進は次のステージへ

キリンホールディングス株式会社

  • 製造業
  • その他地域
  • 301以上
  • 人材活用
  • 能力開発・キャリアアップ支援
  • 登用
  • 職場風土

法人名 キリンホールディングス株式会社
所在地 東京都中野区中野4-10-2
URL https://www.kirinholdings.co.jp/
業務内容 食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを目指し、創業以来のDNAである「お客様本位」「品質本位」を大切にし、日本をはじめ、アジア・オセアニアなどでグローバルに事業を展開する。
従業員数 6,185名
女性従業員比率 23.1%
女性管理職比率 8.4%

(2019年11月現在)

広島県で事業展開する女性活躍先進企業を訪問!

キリングループは、2019年に策定した長期経営構想の中で、大切にする価値観の柱の1つとして初めて「多様性」を掲げた。個々の“違い”を認め合い、尊重する。“違い”は、世界を変える力があり、より良い方法を生み出す力に変わるという考えからだそうだ。キリングループが定義する「多様性」は、単に性別や国籍、雇用形態といった目に見えるものだけでなく、個人の価値観や信条、仕事の進め方やライフスタイルといった内面も含めた“違い”である点が特徴だ。そして、女性活躍推進は、この「多様性」の構成要素の一つとして位置づけられている。

今回は、広島県がキリンホールディングス株式会社と「女性活躍の推進に関する協定」を締結したことを受け、キリングループにおける多様性の歩みと、今の課題や取組について話を聞いた。

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  • 長く取り組んできた女性活躍推進の実績から、より幅広い多様性を柱に
  • 「前倒しのキャリア形成」などにより、女性リーダーを育成
  • 女性の視点で企画、開発された多くのヒット商品と、女性活躍の裾野のさらなる拡大に向けた課題

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1.長く取り組んできた女性活躍推進の実績から、より幅広い多様性を柱に

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キリングループにおける多様性への取組は、2000年代前半から始まった。2003年頃は、入社5年目前後の女性総合職の早期離職が課題であり、就業継続に向けた取組が中心であった。

女性活躍推進に大きく舵を切ったのは、2006年からだ。同年に男女雇用機会均等法が改正され、社会的にも女性活躍推進の機運が高まりつつある時期だった。当時の社長の直属組織として、2007年に社内ワーキンググループである「キリンウィメンズネットワーク(略称:KWN)」が発足し、人事部をはじめとした女性社員が主体となって女性活躍推進とネットワーク構築の活動をスタートさせた。常務執行役員ブランド戦略部長の坪井純子氏(坪井さんからのメッセージはこちら)も全女性社員が集合したKWNのキックオフに参加し、「会社として、女性活躍に本気で取り組むんだという意志を感じました」と振り返る。

以来、KWNから女性社員が抱える不安や想い、課題に対する解決策案を直接経営陣に届けるという地道な活動を続けた結果、2009年にはワーク・ライフ・バランスサポート休業制度(※1)、2013年には在宅勤務制度の拡充などさまざまな制度が整備されてきた。

2013年には「女性活躍推進長期計画(KWN2021)」を策定し、「2021年に女性リーダー比率を12%」という目標値を設定した。計画的に女性社員を育成し、ワークライフバランスをとりながら、“自己成長と会社への貢献”という視点を持ったキャリアを形成することを目指してきた。

こうした取組を続けてきたが、2019年には、女性活躍推進のみならず、新たな段階へ昇華させた。前述のように、長期経営構想の中で、大切にする価値観の柱の1つとして「多様性」を掲げ、成長の原動力として取り組むべき重要課題としたのだ。現在、キリングループでは、多様性を力に変え、イノベーションを実現する組織として成長することを目指している。

2.「前倒しのキャリア形成」などにより、女性リーダーを育成

KWN2021では女性リーダー(※2)育成を主要課題としているが、種々の取組の成果により確実に増え、「2021年に女性リーダー比率を12%」という目標値に手が届きつつある。

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女性リーダーの育成方針として、特に若手女性の「前倒しのキャリア形成」を重要視している。というのは、現在のキリングループの20代社員のおよそ半数は女性であり、就業継続とともに力を発揮させることは、経営的な視点から考えても重要だからだ。

女性は男性と比較して、結婚や出産などのライフイベントにより、キャリアが一時的に中断する場合が多い。そこで、入社7、8年目までの社員を対象に、さまざまな成功経験を積み、早期に自身の得意領域を持たせることを目的として、2、3年単位の短めのスパンでジョブローテーションを実施している。

また、若手向けの女性リーダー育成のための具体的な施策が、年次ごとに行われている。

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入社3年目の「キャリアワークショップ」では、自身がキャリアを主体的に考えるだけでなく、その意思を職場で共有する仕組みを構築している。女性社員とその所属長が共に参加し、キャリアの中断は当然あり得ることや、その時にどのような働き方をすれば良いかなどについて、一緒に考え、共有する。女性社員は、キャリアについて長期的な視点を持ち、早めに経験を積んで仕事への自信を持てば、ブランクがあっても安心して復帰することができることを学び、上司も育成に対する戸惑いを払拭することができるのだ。

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また、特に効果があった取組のひとつに「キリンウィメンズカレッジ」(2014年以降毎年開催中)がある。これは、入社6年目となる20代後半から35歳未満の女性社員の有志が参加するプログラムだ。「プロフェッショナルなビジネスパーソンの育成」を目的とした6カ月間の研修で、キャリアの形成方法や、キリングループの経営戦略などの知識を学ぶ。さらに実務ベースで経営課題を検討し、所属長へ提案した上、各職場で実践することをゴールとする。人事総務部多様性推進室の豊福美咲氏は「職責的には、視座を二段上げて物事を考えるイメージです。若い年次のうちに、会社に影響を与える提言と実践といった成功体験を積ませることが、プログラムの狙い」だという。経営に関わるという経験が、女性社員が管理職にチャレンジする際の心理的なハードルを下げることにもつながっているそうだ。
その他、ライフイベントに悩み始める入社3~5年目の女性社員向けに、メンタリングプログラムを実施し、キャリア向上の意識付け、孤立や燃え尽きなどによる離職防止を図っているという。

3. 女性の視点で企画、開発された多くのヒット商品と、女性活躍の裾野のさらなる拡大に向けた課題

キリングループでは女性活躍を早くから進めてきたこともあり、女性社員が開発等に携ったヒット商品もすでに数多くある。例えば、『午後の紅茶』シリーズは、女性メンバーによって開発され、1986年から続くロングセラー商品のひとつだ。その後、2011年には『午後の紅茶 おいしい無糖』、2019年には『午後の紅茶 ザ・マイスターズ ミルクティー』が商品化されたが、いずれも商品のコンセプト、開発を女性メンバーが担当しているそうだ。時代やニーズを汲み取り、女性ならではの視点で、女性を中心に高い支持を得ている。

2007年に発売された『世界のKitchenから』シリーズは、世界の家庭の食の知恵や工夫からヒントを得て商品化され、飲料の枠を超えたストーリーのある商品として、発売開始以来女性を中心に人気の商品だが、立ち上げメンバーは全員女性。立ち上げ当時、男性顧客中心だった飲料業界の中で、「自分たちが飲みたいもの」をつくろうという想いのもと、おいしさを追い求めて各国に赴き、現地の直伝レシピを基に商品化するというこだわりのあるブランドだ。

2019年には、キリングループが独自に開発した“プラズマ乳酸菌”を使用した新ブランドが発売された。2020年1月には広島県内の希望する保育施設には、同ブランドの粉末が無償提供されており、未就学児の健康維持をサポートしているが、これは子供の健康を保つことで、働くお母さんたちの負担を減らしたいというキリングループの取組でもある。このブランド担当の一人は、子供3人を育てながら働くワーキングマザーだそうだ。

フラットな組織風土の上に、ライフイベントに左右されやすい女性たち自身が、長く安心して働ける制度を整えてきたことで、その気運は、開発部門だけでなく営業部門でも高まっているという。今後、女性が活躍するフィールドはより一層広がりそうだ。

先進的な取組を行う同社だが、現在の課題認識について豊福氏に聞いた。「女性リーダーの数は増えてきましたが、まだまだ決定権を持っているのは男性であることが多く、職域別に見ると、営業や生産現場では、女性管理職比率はさらに低くなります。就職氷河期に採用数を絞った影響などで年代別の社員数に偏りがあり、ワーキングマザーのリーダーが少なく、ロールモデルがいないため、キャリアが描きにくいと感じる女性社員も多いようです。業務上、避けることのできない異動や転勤の負担や、家庭の事情により時間の制約を受けながら働く場合もあります。今後は、こうした社員に対するさらなるフォローも必要だと感じていますが、こうした問題は女性に限らないことであり、多様性を推進する中で、検討していくべき課題だと考えています」。

キリングループが、2013年にKWN2021を策定して以降、進めてきた女性活躍は、着実に20代から30代前半の若手の女性社員のキャリアに対する意識改革などにつながっているという。人材が育ち、女性管理職数の増加といった目に見える成果として表れるのは、これからなのだろう。また近年は多様性推進の取組の一環として、中途採用も積極的に進めているが、社外でのキャリアを持つメンバーが、新たな価値観をもたらすことを期待しているからだそうだ。キリングループの多様性は、常にアップデートしながらこれからも続くだろう。

※1ワーク・ライフ・バランスサポート休業制度:配偶者の転勤・ボランティア・自己啓発を理由に、最大3年間休職できる制度。
※2女性リーダー:経営職+地域限定社員チームリーダー

●取材担当者からの一言

キリングループの取組の特徴は、「多様性を目的化していない」点に集約される。今回インタビューさせていただいた常務執行役員の坪井氏、人事総務部豊福氏からは「グループ一丸となって多様性のある組織を目指し、イノベーションを実現することで会社として持続的に成長する」という明確な目的意識と、その達成に向けた本気度を感じた。また、「多様性の実現が、組織をより良い方向に導いてくれる」ことについて、経営層、管理職層、一般職層それぞれが納得しているかを注視している点も、とても印象的だった。

県内企業においても「なぜ女性活躍や多様性を推進する必要があるのか」を経営層レベルで認識して、経営課題として取り組むことが重要で、その本気度が社員の意識を変え、組織全体を変え、競争力強化につなげることになるのではと感じた。

●取材日2020年1月
●取材ご担当者
常務執行役員 ブランド戦略部長 坪井 純子氏
人事総務部多様性推進室 人事担当 豊福美咲氏