[特集]全国の女性活躍先進事例

「女性の活躍を推進する鍵を握る管理職の意識改革からスタート」

株式会社ルネサンス

  • サービス産業
  • その他地域
  • 301以上
  • 方針・取組体制
  • 能力開発・キャリアアップ支援
  • 職場風土

法人名 株式会社ルネサンス
所在地 東京都墨田区両国2-10-14 両国シティコア3階
URL https://www.s-renaissance.co.jp/
業務内容 地域に根差し、スポーツ振興と健康づくりのサポーター企業として、フィットネスクラブ、スイミングスクール、テニススクール、ゴルフスクール等のスポーツクラブ事業をはじめ、自治体や企業等での健康づくり事業、介護リハビリ事業など幅広く展開。スポーツを通じて人と人をつなげる「場=イベント」などの企画、運営も行っている。
従業員数 1,498名(2020年3月31現在)
女性従業員比率 38.5%
女性管理職比率 12.8%(支配人・課長以上)

(2020年3月現在)

広島県で事業展開する女性活躍先進企業を訪問!

県外に本社を置き、広島県で事業展開する企業から、女性活躍のヒントを得る企画。2020年にフィットネス業界初の「なでしこ銘柄」に選定された株式会社ルネサンス。福山春日店、福山多治米店の「輝く女性事例」も必見!

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  • 女性活躍推進を始めた当初、実際の状況と役員の認識に差があった
  • 組織のムードを変える第一歩は管理職から
  • 男性の育児休業取得率100%を目指して推進中
  • これからの課題は女性管理職のさらなる増加

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1.女性活躍推進を始めた当初、実際の状況と役員の認識に差があった

「『生きがい創造企業』として、お客様の健康で快適なライフスタイルを提案する」という企業理念の下、総合型スポーツクラブを全国展開する株式会社ルネサンス(以下、ルネサンス)。広島県内にも6店舗のクラブを有し、子供からシニアまで幅広い世代の会員が利用している。

ルネサンスは、女性の活躍推進に積極的な企業として、経済産業省と東京証券取引所が共同で主催する令和元年度の「なでしこ銘柄」に、フィットネス業界として初めて選定された。
「今まで地道な取組を進めてきた結果、『なでしこ銘柄』をいただけるまでになりました。まだまだ道半ばではありますが」と、当初より取組を推進してきた人事部次長の豊田実子氏(以下、豊田人事部次長)はほほ笑む。

2014年に人事部内に5名から成る新しい組織「ダイバーシティ推進チーム(現、D&I推進チーム)」を設立。まずは女性活躍の現状を把握することからスタートした。

「女性活躍が注目されるようになった当時、斎藤社長(現会長)をはじめとする経営層は、『当社では女性がもう十分活躍している』と認識していました。というのは、創業以来、男女関係なく仕事や役割を任せる社風で、すでに女性取締役が2名おり、店舗の支配人をはじめとする女性管理職もいました。しかし、新卒採用時は半数以上が女性なのに、結婚等で退職してしまうため、女性従業員比率が34.9%、また女性管理職比率も9.7%であり、女性の力が十分発揮できている状況ではないことを、経営層に伝えました」と豊田人事部次長は話す。

まず、全役員が社外のシンポジウムに参加し、女性活躍をはじめとするダイバーシティ推進の必要性や、企業価値の向上に必要不可欠なテーマであることを学んだ。また、「女性がなぜ辞めてしまうのか分からない」という疑問に対して、全従業員向けにアンケートを実施したり、経営層と女性従業員の座談会を開催するなど、集まった従業員の声を経営層に届けた。そして、中期経営計画を策定し、日本経済団体連合会の「女性の役員・管理職登用に関する自主行動計画」に定量目標を公表した。目下2020年度までに「女性役員5人以上、女性管理職15%、リーダー職(係長相当)50%」という目標を掲げている。

2.組織のムードを変える第一歩は管理職から

当時の課題であった女性の就業継続率を高めるため、2015年に育児休業中の従業員に対して、定期的にオンラインでコミュニケーションを図る取組や、2016年に短時間勤務制度などの両立支援制度の見直しを行った。また、育児中の女性従業員のネットワークプロジェクトや、同従業員向けの「全社フォーラム」、社内報による連載等を通して会社としてのメッセージを発信するなどし、女性活躍の機運を高めることを目指した。

しかし、D&I推進チームは、現場の管理職の認識が時代に追いつけていない、という壁にぶつかった。
従業員の大半は、全国172施設の店舗に勤務する。規模にもよるが、一店舗当たり6名から20名ほどの従業員が配属されており、そのトップは支配人(管理職)だ。ガイダンスの様子①.jpegD&I推進チームは、女性も働きやすい環境とするためには職場のキーパーソンである支配人の意識改革が最も重要であると考えた。そこで、外部の講師を招き、「管理職向け研修」を実施することにした。

「支配人の大半は男性。頭では女性活躍を理解してくれていますが、ご自身の家庭の状況や過去の経験から性別役割分業意識の払拭は難しかったようで、試行錯誤を重ねながら進めてきました」と、D&I推進チームの課長である吉羽典子氏(以下、吉羽課長)は話す。

ルネサンスのD&Iにおける重要な組織が「るねふぁみ+(プラス)」だ。この組織は育児中の従業員のネットワーク組織で、当事者同士が相談、支援し合える関係性を築きながら将来のキャリア形成を見据えた働き方の実現を目指す。2017年の設立当初は、女性従業員のみであったが、近年は男女が半々となっており、現在のメンバーは16名ほど。D&Iを進める上での会社全体の課題の検討と解決に向けたアクションもする。例えば、育児中の従業員のためのハンドブックの作成や、社内報で男性の育児休業取得事例を紹介するなどしている。

「管理職へD&Iの浸透を図る上では、数時間の研修だけでは不十分でした。そこで、何とかできないものかと悩んでいる中、『イクボス』に出会い、『現場管理職の意識改革のために、うちの会社に必要なのはこれだ、と思いました』」と吉羽課長は振り返る。

ルネサンスは、イクボス宣言.jpg2018年にNPO法人ファザーリングジャパンが推進する「イクボス企業同盟」に加盟し、管理職によるイクボス宣言を始めた。従業員が積極的に子育てに関わっていくためには組織や上司が育児休業の取得を勧めるなど、社内のムードが先につくられていないと難しいと考えたからだ。宣言のトップバッターは経営トップである社長が担当し、全社朝礼でイクボスの重要性と自身の宣言を発信したそうだ。その後、D&I推進チームからの呼びかけと並行して、「るねふぁみ+」メンバーからエリア内のリーダー(ボス)に宣言を依頼し、展開事例を集めながら、全社に広めていった。

さらに、支配人のボスである上級管理職(次長、部長、役員)に絞ったダイバーシティマネジメント研修も実施している。経営上におけるダイバーシティの重要性についてディスカッションをし、ただルールや時流に従うのではなく、「なぜそれが必要なのか」というところから理解を深めていく。次に、ダイバーシティの成功事例を紹介し、ワークショップ方式で具体的な行動について学ぶ。イクボス宣言_集合①.jpeg
「1年目は他社の成功事例を紹介していたのですが、次第に社内の事例が集まるようになったため、2年目は社内事例を共有することができました。社内の方が、動き方のイメージもしやすいようです。また、ワークショップでは、ダイバーシティが経営の成果につながることを意識した事例を募り、好事例に対しては、賞状を準備して感謝し、褒めるといった仕掛けも導入しました。『上級管理職の立場になると、賞状をもらうことはないのでうれしい』といった声が聞かれ、意外と効果があったように思います」と豊田人事部次長は話す。

3.男性の育児休業取得率100%を目指して推進中

管理職の意識改革に力を入れた結果、次第に各店舗の雰囲気も変化し、男性の育児休業取得の増加にもつながっているという。

ルネサンスは、2017年に「2才6カ月までの子を持つ男性の育児休業取得率100%」という目標を設定したが、2019年度においては、平均取得率76.2%、平均取得日数4.3日となっている。育児休業を取得する従業員は、30代のチーフ職(主任クラス)が多いそうだが、計画的に調整して、不要な業務がないかの見直しを図ったり、後輩に権限を移譲したりすることで、後進の育成や働き方を見直すきっかけにもなっているという。

「新入社員にダイバーシティ研修を実施していますが、『育児休業を将来取りたい』と考える男性が増えています。一方、ジェネレーションギャップもあってか、管理職はなかなか理解できないといった問題がありましたが、イクボス宣言等で意識改革が進んできました。キャリア面談等でボスから取得を促したり、社内報で事例を紹介するなどしています。シフト制の勤務形態のため、平均取得日数は少ないですが、育児参画のきっかけになればと考えています。子育てを経験した従業員は、お子さま向けのプログラムでも、お子さまの気持ちや保護者の視点を取り入れながらレッスンが提供できるなど、業務上のメリットもあると思います」。

4.これからの課題は更なる女性管理職の増加

令和元年度の「なでしこ銘柄」に選定され、「女性活躍推進企業」という外部評価も得た同社ではあるが、課題もある。女性従業員比率38.5%に対して、女性管理職比率12.8%であり、まだ少ないと認識している。

「子育て中の女性従業員は、時短制度を利用したり、早番の勤務にしたりすることで仕事を続けることが定着してきました。しかし、どうしても同じ仕事や役割、店舗にとどまり、キャリア研修.jpgキャリアという意味では伸び悩んでしまうといった課題があります」。そこで、2016年から女性自身にキャリアの継続やキャリアアップに対する意識を高め、具体的な行動がとれることを目指して、キャリア形成の初期である入社3年目から3年ごとに計3回、キャリアデザイン研修を実施している。また、全従業員向けのキャリア・ディベロップメント・プログラム(キャリア開発プランを会社と上司に年度ごとに申告)やキャリア面談もある。

スポーツクラブは、休日や夜間も営業しており、全国にある店舗への転勤の可能性があるため、プライベートと両立しながらキャリアアップを図ることができる制度として、地域限定正規従業員制度(転居を伴う転勤のない従業員や、勤務する地域を限定したエリア従業員の制度)、テレワーク制度等を整備した。さらに、今年度よりキャリア形成を視野に入れた両立支援策の1つとして、夜間や休日も出勤可能とするためのベビーシッターの費用補助制度も開始した。

「最近は、お子さんと一緒に地方から都内に転居して、副支配人としてキャリアアップするケースや、3人の子育て中でも支配人として活躍する女性従業員もいます。少し前までは育児休業明けは時短勤務とする従業員が多かったのですが、フルタイムで復帰し、夕方から夜間の勤務をこなす従業員も増えてきました。それぞれの家庭環境や考え方などがある中で、多様な価値観を尊重しながらも、仕事も子育ても『生きがい』と感じてもらいたいと思います。今年度から、女性管理職候補者向け個別育成計画を本格的に運用開始しました。ライフイベントを考慮しつつ、足りないスキル等を見直し、自信をもって支配人や課長職に着任できるよう、後押しをしています。女性はロールモデルが少ないので、自分が役割を果たせるのか不安になる傾向が強く、また、上司も女性の部下を育成するという意識をもっていただきたいのです」と吉羽課長は言う。

ルネサンスでは、取締役として1名、執行役員として3名の女性が活躍中で、女性役員のロールモデルもすでにいる。キャリア形成とライフイベントの両輪をうまく回し、より多様な人材が活躍可能となる日もそう遠くないはずだ。

●取材担当者からの一言

ルネサンスは全国172施設を運営し、社員数は1,498名。このような組織で女性活躍を推進する上で、専任組織「D&I推進チーム」が先導役としてうまく機能しているようだ。

まずは、経営層に現状と課題を伝え、女性活躍推進という旗を掲げ、次に現場の管理職の意識改革を進め、店舗の旗振り役にする。さらに、「るねふぁみ+」メンバーがボトムアップで活動して盛り上げる。状況をつぶさに把握しつつ、1つ1つ課題を解決し、「なでしこ銘柄」に選定されるまでになった。

小規模な組織であれば、経営者によるリーダーシップにより、トップダウンで進めることが可能であるが、組織が大きくなると、推進組織がしっかりと機能することが必要であるようだ。ルネサンスのD&I推進チームによる現場視点での改革から、学ぶことは多いのではないだろうか。

●取材日 2020年10月
●取材ご対応者
人事部 次長 兼 人材開発チーム 課長 兼 D&I推進チーム 豊田実子氏
人事部 D&I推進チーム 課長 吉羽典子氏