[特集]アドバイザー支援企業事例

「会社の未来をかけた女性活躍と職場改革」

株式会社タイヨー

  • サービス産業
  • 広島市
  • 31〜100
  • 方針・取組体制
  • 評価・処遇
  • 職場風土
法人名 株式会社タイヨー
所在地 広島市安芸区船越南5-11-1
URL https://www.taiyo-net.co.jp/
業務内容 1951年創業。現在は広島市安芸区に本社を構え、広島県を中心に山口県、島根県など県外でも事業を展開している。
一般廃棄物、産業廃棄物、特別管理産業廃棄物の収集運搬、破砕等の中間処理に関わる事業を行い、地域に根差し、地域社会の環境に貢献している。近年は、循環型社会に向けた各種リサイクル事業に注力している。
従業員数 67名
女性従業員比率 29.9%
女性管理職比率 8.3%

(2020年6月現在)

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  • 2代目社長による、生き残りをかけた「魅力ある職場づくり」と「女性活躍」
  • 女性従業員の新規採用と並行し、ボトムアップで意見を募り、職場環境を劇的に改善
  • 公平で透明性の高い評価制度で、従業員のやる気を引き出す
  • 女性従業員の定着後に見据える、女性の職域拡大と管理職登用

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廃棄物を処分、再資源化する社会のインフラとして重要な役割を担う、株式会社タイヨー(以下、タイヨー)。2020年6月現在、女性従業員比率は29.9%であり、3年前の8.8%から大幅に増え、多くの女性が活躍する企業となった。将来的な目標数値として、女性従業員比率50%を掲げる同社だが、2018年に「広島県女性活躍推進アドバイザー個別支援事業」を活用し、アドバイザーとともに女性活躍推進の取組を進めてきた。同社における、女性従業員数の大幅増に成功した秘訣や、今後の課題や展望について話を聞いた。

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1. 2代目社長による、生き残りをかけた「魅力ある職場づくり」と「女性活躍」

 代表取締役元山琢然氏(以下、元山社長)が、父でもある先代から事業を引き継いだのは2017年。売上は右肩下がりで、経営状況は芳しくない中での社長交代だったそうだ。元山社長は、「事業を引き継いだ当時は、財務の健全化や人材不足など課題が山積みで、どこから手を付けようかという状況でした」と、振り返る。
 廃棄物処理業は、収集や分別などの作業に多くのマンパワーが不可欠であるが、創業以来、男性が主な担い手であった。また、人材が定着しないといった業界共通の課題がある中、元山社長は、これまでターゲットとしてこなかった女性に目をつけ、新たに女性を採用し、戦力として活躍してもらうという前例のないチャレンジに乗り出した。また、「この業界は、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)の職場環境。その環境を変えたかった。女性だから、男性だからという区別はせず、みんなが働きやすい職場にしたかった」と、元山社長が話すように、タイヨーは「人材の確保」という経営課題を解決するため、トップがリードして、先入観にとらわれない女性活躍・職場改革へと舵を切った。

2.女性従業員の新規採用と並行し、ボトムアップで意見を募り、職場環境を劇的に改善

女性従業員を含む採用拡大にあたり、さまざまな工夫を凝らした。

まず取り掛かったのは、自社サイトのリニューアルだった。PR会社の協力の下、元山社長が考える会社のイメージを表現するよう全面的に変更。「この会社で働きたい」と感じてもらうため、採用ページ上では、生き生きと働く女性従業員の映像を掲載したり、評価制度や従業員が利用できる設備などを丁寧に説明したりするよう試みた。

また、サイトのUU数(ユニークユーザー数)やPV数(ページビュー数)のデータを解析し、どの年齢層が多くサイトを訪問しているか、応募者がサイト内のどの部分に関心を示しているかなどを分析。採用したいターゲットを絞り、より多くのターゲット層にリーチするサイトにバナー広告を出稿したり、ターゲット層が、何を重視して職を探しているかといったニーズを探るなど、様々な研究と工夫を重ねたそうだ。

「サイトへは、アフィリエイト広告などインターネットを活用して導線をつくり、求職者との最初の接点となるようにしました。当時、求人情報に特化したWeb検索サービスが始まったので、それもうまく活用しました」と、常務執行役員加藤勇樹氏(以下、加藤氏)は言う。

これにより、ハローワークなどの従来型の採用手法とは異なり、県外も含め、より広く、より多くの応募者にアプローチできただけでなく、求職者が直接同社に応募してくるようになり、採用にかかるコストも抑えられたそうだ。

_DSC1327.jpg徐々に女性従業員が増加傾向になる中で、20184月、廃棄物処理業では全国的にも珍しい事業所内保育施設を会社敷地内に整備した。当時の保育費用は、従業員であれば全額会社負担とし、小さい子供を持つ親も安心して働ける環境を整えた。この取組により、一気に女性従業員比率が上がり、20189月には24.0%へと急上昇した。

同時期に、「広島県女性活躍推進アドバイザー個別支援事業」のアドバイザーである桐原明栄氏(以下、桐原氏)が女性活躍推進の取組への支援開始。全従業員に無記名アンケートを配布し、現場の声を吸い上げて経営層に提言を行うなどし、これをきっかけに、2019年4月には、男女別の休憩室やシャワー室、パウダールーム、キッズルームが改築されるなど、設備面の整備につながり、業界紙にも掲載されるなど、同業他社からも注目を集めてきた。

その他にも、応募者の負担を少しでも減らす目的で、面接に来た応募者を最寄駅まで送迎したり、県外からの応募者が増えてきたことから、新規採用者が新居を借りる際、敷金などの初期費用を会社が負担し、遠方から広島に引っ越し、同社で働き始めるに当たっての経済的な負担を軽減するなどした。このように、応募者のニーズを先読みし、優秀な人材を確保するため、細部にわたってさまざまな策を打ってきた。

加藤常務.jpg「優秀な人材を確保するために、業界問わず各社努力をしています。ただ待っていても人は来ない時代。周囲からアドバイスをもらい、手厚過ぎるように感じるかもしれないですが、いいと思ったことは迷わずアクションを起こす。その繰り返しが、結果につながったと思っています」と加藤氏は話してくれた。

こうして地道な努力を重ねた結果、近年では男女問わず、鹿児島や四国各県、京都からの採用実績も出てきたそうだ。

短期間のうちに急激に女性が増えたことで、現場でさまざまな悩みを抱えていた女性従業員も多かったそうだが、桐原氏は、女性ならではのフラットな視点で、一人一人に寄り添い、本音を聞き出し、アドバイスを行ったり、仕事に対するモチベーションを高めるサポート役を担ったそうだ。

また、業務においても、スキル面、体力面を補うため、普通免許でも運転が可能なATトラックの導入や、廃棄物選別のコンベアを導入するなど、未経験者でも仕事を始めやすいように改善し、コストと時間をかけ「魅力ある職場環境」へと変化させていったという。

働きやすさの実現に向けても、アドバイザーの桐原氏のサポートも受けながら、「今、職場で何が必要か」を従業員から聞き出し、1つ1つ丁寧に課題に対応したそうだ。採用と環境整備のスパイラルを続けた結果、男性も含めた従業員の定着につながっているという。

DSC0719.jpg「トップダウンだけではなく、ボトムアップで会社をつくっていくというスタンスで、従業員が主体的に声を挙げてくれたらいい。これからも、従業員のニーズに対して、会社として可能な限り応えたい」と、元山社長は話す。

3.公平で透明性の高い評価制度で、従業員のやる気を引き出す

元山社長の就任後、職場環境の整備と併せて、人事制度の刷新にも取り組んだ。その背景には、「正しく評価されていない」と不満をもつ従業員の声が多く聞こえたからだ。そこで、1年半ほどかけて透明性の高い人事制度を目指して整備し、2019年4月から、新制度の運用を開始した。

一般職を4等級、管理職には、マネジメント職とスペシャリスト職の資格等級基準を設定し、各部門別に求められる要件を定義し、昇給のための具体的な目標を示した。これをもとに、四半期毎に上席者と面談し、自身の目標設定や振り返りを行い、評価基準に従って評価を受けるが、この評価基準の他にも、従業員同士、お客さまといった多面評価も取り入れることで、より公平性の高い評価になるよう工夫しているそうだ。
「何がどの程度できていれば次の等級にステップアップでき、報酬アップにつながるか」を見える化することで、従業員自身が目標を設定し、積極的にキャリアアップを目指すことを促す。この等級基準と評価基準は、従業員がいつでも確認できるよう、社内会議室に掲示されている。

キャリアアップ支援としては、業務に必要な中型免許など各種免許を取得する際の、会社の補助制度などがある。入社時は、ほとんどの従業員が普通自動車免許のみだそうだが、ほぼ全員が、その後中型免許を取得し、大型免許を取得した女性従業員もいるそうだ。DSC2791.jpg

男女共、全ての業務ができるようにすることを目指す中、評価の公平性については、常にアップデートが必要だと考えていると言う。

「廃棄物の回収や分別といった作業の生産性をどう正しく評価するかなどは、今も課題ですが、従業員にとって納得感のある仕組を実現するため、常に意見を吸い上げながら、模索を続けています」と、元山社長は話してくれた。

4. 女性従業員の定着後に見据える、女性の職域拡大と管理職登用

「この業界は、業務に慣れるまでに退職してしまうケースが多いが、女性の方が辛抱強いのか、当社では定着率が男性よりも高い」と元山社長は言う。女性の就業が定着してきたタイヨーにおいて、次なる取組は「女性の職域拡大と女性管理職登用」へシフトしつつある。同社では、女性活躍推進のための行動計画(2019年4月~2023年9月)として、以下の2点の目標を掲げている。
 目標① 女性管理職比率を30%以上とすること
 目標② 女性の職域の拡大

DSC08341.jpg2017年に派遣社員として同社で仕事を始めた、営業管理部管理課の真木佳子氏は、2020年1月、正規従業員登用と同時に女性管理職となった。「もともと、長く続けるつもりで入社したわけではありませんでしたが、派遣されてから間もなく、顧客システムの導入プロジェクトに関わりました。システムに関する専門知識はありませんでしたが、責任ある仕事を任せてもらい、最後までやり遂げたいという気持ちが芽生えました。導入後は、定期的なメンテナンスが必要ですが、自分が手掛けた仕事を中途半端で終わらせたくないという気持ちもあり、正規従業員登用の話をいただいたときは、前向きにチャレンジしてみようという気持ちになりました」と話す。

職域の拡大については、2018年に同社初となる女性営業職を採用した。また、2020年に新卒採用した8名(うち、女性は1名)は、積極的にジョブローテーションを行い、成長を促す新たな試みも進行中だ。現在、早朝や夜間の収集運搬作業は男性のみで行っているが、それ以外のすべての部署に女性従業員が配置されている(図1)。今後は、女性管理職が登用された管理課以外の部門でも、女性管理職候補となる人材を育成していきたいという。

図1-1.jpg

最後に、タイヨーの今後のビジョンについて、元山社長に伺った。「現状では、廃棄物のルート回収の効率を上げるには、収集地区の道順や収集場所を正確に記憶しておくなど、一定の熟練度が求められます。新人とそうでないメンバーとでは、この差が作業の生産性の差に直結し、評価に影響してしまう。ITを活用することで、こうしたスキルの差を埋めて、効率的に仕事ができるようにしたいと考えています。また、どうしても重いものを運ばなければならない業務はありますが、男性と女性でチームを組んだり、女性2名体制にしたりする工夫をしています。今後は、女性だけのチームで、収集作業を行うといったことも構想しています。実際に、女性メンバーがルート回収作業を担当するようになってから、地域の方が声をかけてくださることが多くなりました。地域の方とのコミュニケーションにより、従業員が地域の役に立っていると実感し、それがモチベーションになってくれたらと思っています」。

●取材担当者からの一言

タイヨーの若手の経営層が、必要だと本気で感じたことを着実に行った結果が、まさに時代が求める「女性活躍推進」と「職場改革」だ。短期間で成果を出すには、経営層の推進力が非常に重要だということを改めて感じた。 また、女性従業員比率が非常に少ない企業においては、女性の採用が先か、環境の整備が先かと、悩む場合もあるが、同社は採用と同時進行で、女性が働きやすい環境を整えていることも特筆すべき点である。そして、体力面の差や、ライフイベントに影響を受けやすいといった女性の特性に配慮し、柔軟に対応した結果、タイヨーは男女共に働きやすい企業へと変化している。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が昨今話題になっているが、ITを使いこなし、よりジェンダーレスで働きやすい職場へとさらなる進化を遂げ、廃棄物処理業界のトップランナーとなるかもしれないタイヨーのこれからの展開に注目したい。

●取材日 2020年6月
●取材ご対応者
代表取締役  元山 琢然氏
常務執行役員 加藤 勇樹氏
営業管理部 管理課 総務係 真木 佳子氏