[特集]アドバイザー支援企業事例

「経営者の強い意志とキーパーソンである女性管理職が進める組織風土改革」

三鬼化成株式会社

  • 卸売業・小売業
  • 広島市
  • 31〜100
  • 方針・取組体制
  • 評価・処遇
  • 職場風土
法人名 三鬼化成株式会社
所在地

広島市西区横川町2-13-2

URL

https://www.sankikasei.co.jp/

業務内容 1952年の創業以来、合成樹脂の専門商社として、広島に本社を、東京、大阪、福岡に支社を構える。多種多様な商品群と、加工技術を強みとし、地域密着の方針の下、顧客のニーズを的確に把握し、それに最大限応えることを信条としている。
従業員数 74名
女性従業員比率 35.1%
女性管理職比率

5.9%

(2020年9月現在)

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  • トップが変わるタイミングで年功序列を廃止し、等級や働きやすさを重視した人事制度に
  • 一般職の評価軸も見える化し、モチベーションアップへとつなげる
  • 外部のサポートも受けながら、組織と従業員双方の意識の変化を少しずつ実感

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三鬼化成株式会社(以下、三鬼化成)は、2014年に大久保恵身氏(以下、大久保社長)が代表取締役社長に就任して以降、人事制度の刷新や働き方改革(働き方改革の記事はこちら→)、女性活躍推進などをトップリードで進めてきた。2018年には「広島県女性活躍推進アドバイザー個別支援事業」を活用し、外部の力も借りながら社内に新しい風を吹かせ、着実に取組を進めている。同社が、組織風土改革に踏み切った背景や成果、今後のビジョンについて、話を聞いた。

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1.トップが変わるタイミングで年功序列を廃止し、等級や働きやすさを重視した人事制度に

広島市西区横川に本社を構える三鬼化成は、創業以来およそ半世紀にわたり、合成樹脂の専門商社として、地域社会を支えてきた。住宅や車の内装など、あらゆるものに使われる合成樹脂関連商品を多種多様にそろえ、顧客のニーズに応じて提供する卸販売をするほか、優れた加工技術を持つ協力会社との幅広いネットワークを強みとしている。2020年6月には、コロナ禍で不足している医療従事者向けプラスチックガウンを広島県に寄贈(記事はこちら)するなど、地元に貢献することも常に信条としているそうだ。

大久保社長が就任した2014年に中期経営計画を策定し、当時の経営課題の一つであった人事制度改革に着手。「やってもやらなくても同じではなく、やった分だけ正しく評価したい。自分で考えて行動する人材になってもらいたい」という大久保社長の強い意志の下、まず、2017年に人事コンサルティング会社に協力してもらい、全従業員に対し、無記名式のアンケートを実施。そこで、従業員の意識を把握して課題を見つけ、制度構築の参考としたそうだ。

そうして作った新しい人事制度には、「性別・年齢との関係が強かった等級・報酬制度を改め、意欲・能力の高い人材に報いる」という明確なコンセプトを設定し、従来の年功序列型の制度を廃止し、新たに等級ごとに期待する役割を設け、それに見合う成果を出せば評価につながり、報酬にも連動する制度とした。
新たな人事制度の下では、一人一人が与えられた役割の中でどう組織に貢献し、行動するかについて目標設定することとした。個人目標として、自身の等級における要件としての「あるべき姿」と、等級ごとの「MUST(求めること)」と「WANT(期待すること)」を具体的な行動計画に落とし込み、半期に1度直属の上司と面談を実施し、振り返りやその進め方について共有するそうだ。

これまで、男性は総合職で営業、女性は一般職で事務という性別役割分担意識が根付いていたそうだが、人事制度の刷新を機に、地域限定総合職を新たに設け、育児などで一時的に異動が難しいといった制約がある女性でも、頑張り次第で一般職から総合職に転じたり、報酬アップにつながる道筋をつくるなどした。

当初は人事制度の刷新に戸惑う従業員がいたり、制度の趣旨が現場の管理職に浸透していないと思われるところがあったという。例えば、ワークライフバランスを重視する若い世代では、転勤を望まない男性従業員もいる。実際、家庭の事情で一時的に転勤が難しいという理由で、地域限定総合職を希望する男性従業員もいた。しかし、役割が変わる選択には、本人にとってデメリットもある。上司は、申し出に対して安易に了承するのではなく、一人一人じっくり話を聞き、納得してもらうまで丁寧な対応を徹底するなど、地道な活動を続けたそうだ。

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「従業員数が少ない中で全国に拠点があるので、みんなが異動しなくても良い働き方を選択できるかといえば、それは難しい。ただ、個人の事情と会社の事情を踏まえた適切なタイミングは当然考慮します。職種が変われば、役割が変わる分、報酬が下がるなどデメリットもある。従業員にとって何が一番良いかを総合的に考えるのが上司の役割だと考えています。女性も優秀な従業員が多く、能力があり、やる気のある人材を活用しない手はないし、どんどん活躍してもらいたい」と、大久保社長は話してくれた。

こうしたメッセージを、現在も各拠点の部門長が集まる会議などで、定期的に発信し続けているそうだ。

2.一般職の評価軸も見える化し、モチベーションアップへとつなげる

三鬼化成の人事制度改革の特徴として、一般職である事務の評価制度を整備している点が挙げられる。具体的には、一般職を4つの等級に区分し、それぞれに役割を与えて評価する仕組みだ。これまで事務職は年功序列で自動的に昇級できたが、新制度では個人の頑張りによるという。一般的に、事務職は営業職とは異なり、「売上」のようなわかりやすい評価指標がないケースも多い。また、業務が固定的であるため、「出来栄え」や「業務の質」といった面でも差をつけにくいとされているが、業務において「どのようなパフォーマンスを求めるか」について、等級ごとにわかりやすく示し、「MUST」と「WANT」で習得する知識の範囲や深度、必要なソフトスキルなどを定めている。こうすることで、被評価者が目指すべき姿や身につけるべきスキルを理解しやすいよう工夫しているそうだ。

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また、三鬼化成では、営業職と事務職がペアを組んで仕事を進めることが多い。得意先を訪問し、関係性を構築することがメインの営業職より、電話などでお客さまに相対する機会は、事務職の方が圧倒的に多いからだ。お客さまからの問い合わせ時に、ニーズを的確に捉え、多くの自社取り扱い商品の中から適切な提案を行うためには、幅広い商品群に関する知識、コミュニケーション能力、提案力などさまざまなスキルが必要だという。事務職であっても営業の一翼を担っていることから、営業職ほど比率は高くないものの、営業目標も評価指標に組み込まれているそうだ。

さらに女性管理職の育成に関しては、「新たな人事制度の下、地域限定総合職となり、キャリアアップした女性従業員がいますが、若手が多いため、まさに、将来の女性管理職候補となる人材を育成しているところです。例えば、外部セミナーへの積極的な参加を促し、社外との交流を深め、異業種を含めた社外の女性管理職の方と出会うことで視野が広がり、良い刺激を受けることもあります。これからの成長と活躍に期待しています」と、管理部総務人事担当部長 沖聖子氏(以下、沖総務人事担当部長)は言う。

3.外部のサポートも受けながら、組織と従業員双方の意識の変化を少しずつ実感

2018年から三鬼化成で女性活躍推進アドバイザーを務める小野正憲氏(以下、小野氏)は、参画当時、女性従業員の意識改革と、多様な職種への配置の必要性を感じたそうだ。先にも述べたように、性別役割分担意識が根強く残る組織風土であったため、女性が「自分自身のキャリアを築くことが、将来的に自分のためになる」と、感じられる環境があまり整っていなかった。小野氏は、女性活躍に関するさまざまな外部情報や、研修会の案内などを提供し、積極的に参加を促すとともに、2018年11月には「女性が活躍する会社にするには何が必要か」というテーマで小野氏本人が講師になり、社内研修を行った。

この社内研修について沖総務人事担当部長は、「全く意見が出なかったらどうしようと心配していましたが、ディスカッションが予想以上に盛り上がり、驚きました。そのとき、普段あまり発言することはない従業員でも、みんなそれぞれに考えや思いがあることを知り、もっとコミュニケーションを取り、女性従業員の意思をくみ取っていきたいと感じました」と、当時の様子を振り返る。

すぐに組織風土や従業員の意識を変えられる取組はないものの、小さなアクションの積み重ねが、個々の意識を変え、やがて組織風土を変えると小野氏は考える。「これからも、中長期的な視点で、粘り強く取り組んでいく必要がある」と話してくれた。

こうして、風土改革を行う中で、新たな職域で女性の活躍も進んできた。現在、女性営業職は1名だが、2021年度は、3名の女性営業職を採用する予定だそうだ。過去の三鬼化成の営業職は、重い塩化ビニールシートなどの商品を配送する役割があり、配送が深夜の時間帯や休日になることもあったそうだ。こうした体力的、時間的な要因により男性が主な担い手だったが、近年は、物流会社に委託したことや、働き方改革を進めた結果、女性でも営業職が担えるようになった。商品企画の一部を担う営業においては、女性の視点からの提案も必要で、得意先からの評価も高いそうだ。

一方、「今までゼロだった営業職に新たに女性を配属し、育成する難しさはあります。会社としてのマネジメントが不十分で、能力を生かしきれていない面もあるかもしれません。また、女性従業員自身も、同じ職種の仲間や先輩がいないため、戸惑い、悩むこともあるかもしれません。今後、女性営業職を増やすためには、マネジメントする側の教育も必要だと感じています」と取組を進める上での今後の課題について、沖総務人事担当部長は語ってくれた。

● 取材担当者からの一言

企業のトップとして組織をけん引し続ける大久保社長、女性活躍推進のキーパーソンであり、ロールモデルでもある沖総務人事担当部長が主体となり、アドバイザー小野氏をはじめ、外部の情報やセミナーなどをうまく活用しながら、女性活躍を着実に推進していると感じた。三鬼化成では、女性管理職比率を30%に引き上げることを目標としており、記事でまとめたように、そのための制度整備や意識改革も進みつつある。また、大久保社長、沖総務人事担当部長の思いでもある「従業員には、長く組織にいてほしい」を実現するため、従業員にとって居心地が良い職場環境づくりや、公正な評価制度の下で活躍できる組織づくりに真摯に向き合っている。長年、組織に貢献してくれている人材を大切にしながら、新たな人事制度の下で人が入れ替わり、さまざまな考えや思いを持つ人材がさらに加わることによって、温故知新の新たな組織風土が醸成される、そんな三鬼化成のこれからがとても楽しみだと感じた。

●取材日 2020年9月
●取材ご対応者
代表取締役社長 大久保 恵身氏
管理部総務人事担当部長 沖 聖子氏