女性活躍事例

「採用率UP、残業削減や女性の配置転換、
有言実行の大改革」

株式会社石井表記

  • 製造業
  • 福山市
  • 301以上
  • 方針・取組体制
  • 両立・継続支援
  • 人材活用
所在地 広島県福山市神辺町旭丘5番地
URL http://www.ishiihyoki.co.jp/
業務内容 株式会社石井表記は、液晶パネル製造装置やプリント基板研磨装置などの産業用装置メーカー。もともとはネームプレート(機械に貼る名札)製造から出発したが、印刷・焼付け技術を転用し、プリント基板製造に進出。その後、表面処理研磨機の開発へと進み、今では世界トップクラスのシェアを誇る。
従業員数 374名
女性従業員比率 21.4%
女性管理職比率 4.9%

(2017年10月現在)

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代表取締役会長兼社長 石井 峯夫 氏

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  • 業界共通の問題である「女性従業員比率の低さ」を経営課題の1つと捉え、改善
  • 女性の採用比率が12.5%から50%に大幅アップ
  • 配置転換や管理職登用など活躍の場を広げる試みを実践
  • 両立支援や残業削減に本気で取組、着実に環境が改善

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1 業界共通の問題である「女性従業員比率の低さ」を経営課題の1つと捉え、改善

(株)石井表記(以下、石井表記)は、女性が活躍する風土や制度づくりが重要と考え、経営課題の1つとして取り組んできた。女性活躍に関する最大の課題は、機械器具製造業界に共通するであろう「女性従業員比率の低さ」である。これまで、女性に適した業務が少ないという先入観があったり、労働環境面や体力面でハードな業務が多いことから、女性の採用を積極的に行っていなかった。それに加え、募集対象の理系・工学系の人材にはそもそも女子学生が少ないこともあり、売り手市場である近年の採用環境の中、「待ちの姿勢」では優秀な人材が確保できないという状況があったようだ。また、女性管理職の登用が進んでいないことも課題と認識し、「女性の採用拡大」と「女性が活躍する機会の拡大」を目標として、平成28年度に次世代法に基づく「一般事業主行動計画」(※1)を策定。「女性の採用割合を25%以上とする」という定量的目標を掲げ、リクルート活動における工夫や女性従業員の配置転換等の具体的な取組を始めた。そして、策定から1年が経過した現在、これらの成果が徐々に表れ始めているという。その内容を詳しく尋ね、以下にまとめた。

※1 次世代法による「一般事業主行動計画」
次世代育成支援対策推進法に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、(1)計画期間、(2)目標、(3)目標達成のための対策及びその実施時期を定めるもの。従業員101人以上の企業には、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務付けられている(100人以下は努力義務)。

2 女性の採用比率が12.5%から50%に大幅アップ

石井表記は、従来から、県、学校、雇用対策協議会等が主催する合同説明会や会社独自の説明会を通じて採用活動を行ってきた。女性従業員比率向上のためにまず取り組んだことは、「企業アピール」だ。学生の関心の高い福利厚生面等に重点を置き、しっかり説明すること。例えば、同社では、種類豊富で味も評判の食事が用意される社食があり、半額補助を行っていること、立地上、車通勤が主となるため自宅から制服で通うことが可能なこと、長期的に従業員のライフプランに寄り添う確定拠出型年金制度があること等を紹介。また、ここ10年は出産・結婚で辞める女性従業員が少なく、両立支援制度の活用実績が多くあることも忘れずに伝えている。社内の取締役会においても「女性の採用割合を25%以上とする」という目標を掲げたリクルート活動状況の進捗を報告。渡邊管理本部長自ら経営陣に説明することで課題の重要性を伝達している。福山市に工学系の学部を有する大学等が少ないこともあり、採用活動には苦労しているそうだが、人的ネットワーク等も駆使しながら取り組んだ結果、徐々に成果が表れ始めた。取組以前の平成28年度の新卒採用では女性は1人(男性7名)であったが、平成29年度には女性5名(男性14名)、平成30年度の採用見込み数は女性8名(男性8名)と、目標の「女性採用割合25%」を大きく上回る50%となった。

図1 新卒採用人数の推移(男女)

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また、最近は、女性が技術職や製造職を希望して入社してくるケースも増え、平成30年度の新卒採用では採用見込みの女性8名中2名が技術職採用となった。今後の課題は、「採用した女性従業員の能力をいかに発揮させ、活躍させることができるか」という人材育成にシフトする。

3 配置転換や管理職登用など活躍の場を広げる試みを実践

以前は、社内に男女の固定的役割分担意識があり、女性が活躍可能な部署が限られていた。そのため語学が堪能な女性が入社してきたにもかかわらず、その能力を発揮することなく退職してしまった例もあるそうだ。そういった優秀な人材の流出を防ぐべく、同社では、これまで女性がいなかった部署にも能力に応じて積極的に女性を配置するようにし、固定的役割分担意識をなくすように努め始めた。例えば、デザインを学んで入社した女性従業員を管理部門から開発部門に転換。デザインに関わる職務を担当させることで、能力を発揮することができ、本人も楽しんで仕事に励んでいるそうだ。また、平成29年から、希望者の女性を製造現場の「実装(※2)」部門や「印刷」部門に配置。従来は主に検査部門に配属されていたが、初めて「ものづくり」部門にも女性を配置した。現在は、3名の女性従業員が活躍している。女性が製造現場に入ったことで、男性従業員側も教え方に気を付ける、職場環境の改善に努めるなど、良い刺激になっているという。今後もJOBローテーションを含めて配置転換を進めていく方針だ。
また、女性活躍を推進する上で、配置転換同様、「女性の管理職登用」も進めてきた。平成26年時点で女性管理職は営業管理課の課長1名であったが、平成29年には女性課長2名、女性部長1名に増えた。女性課長の1人である経営企画部課長の井上氏は、固定的役割分担意識がある中で成果を出そうと仕事に励む積極的な姿勢を会社側が評価し、管理職登用を実現した(井上氏の記事はこちら)。

※2 半導体の基板の組み立てを行う部門

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4 両立支援や残業削減に本気で取組、着実に環境が改善

約20年前までは結婚を機に、当たり前に退社する女性が多かったそうだが、時代の流れとともに結婚・出産後も働き続けたいと希望する女性が増えてきた。それに伴い、男女共長く働き続けられる職場環境整備の一環として両立支援制度を整えるとともに、従業員に周知し、活用事例も多くなってきた。例えば、育休復帰後の時短勤務については、復帰した女性従業員はほぼ全員がその制度を利用している。また、半日単位の有給休暇制度もあり、利用率は高い。さらに、転勤については個々の事情に配慮することに加え、転勤後のサポートもある。一例を挙げると、広島が実家で東京の事業所に転勤になった場合、里帰り費用の補助まで行う。従業員の親までを視野に入れた支援であり、好評だ。
時間外労働の削減に関しては、15年前から「ノー残業デー」を実施。基本的に水曜日と週末の2日設定(※3)し、従業員の意識啓発に取り組んできた。また、社内情報システム部で開発した「勤怠管理システム」に「残業アラーム」を設定。36協定上限時間や回数を超過しないよう、注意喚起を促すようにしている。また、残業アラームが鳴っている従業員については、どういう部署でどういう業務を行う者にアラームが鳴るかを毎月役員に報告する。こうした地道な労務管理を行うことで働きやすい職場環境を作り、結果男女問わず優秀な人材の確保と活躍につなげたい考えだ。

※3 石井表記は完全週休2日制であるが、週中に祝・祭日があった場合、土曜日が出勤となる場合がある。平成29年度の土曜日出勤日は3回。よって週によって週末の曜日が異なる。また「ノー残業デー」を2日設定することを開始したのは10年前からでそれまでは週1日の設定だった。

取材担当者からの一言

石井表記が取り組む女性活躍に関する課題は製造業全体に共通しているであろう。早期に経営課題と捉え、アクションをした結果、短いスパンで女性の採用比率50%という成果が出ている。製造業では女性の活躍は難しい、何から始めたら良いかわからないといった声がよく聞かれるが、「数値目標を定めた女性の採用増」、「女性が活躍する部署の拡大」、「女性管理職の積極的な登用」といった同社の取組は非常に参考になるのではないか。
今後は、個々の能力が発揮されるようなキャリア形成支援、配置転換、管理職へのさらなる登用等が課題であるが、そのためには経営トップ、各管理職、従業員全員に多様性の風土を浸透させる必要があるだろう。

type2_ishii_hyouki_6.jpg●取材日 2017年10月
●取材ご対応者
常務取締役 管理本部長 渡邊 伸樹 氏
人事労務部 次長 皿田 泰堂 氏