女性活躍事例

「女性活躍推進の歩みが遅い造船業界の手本として、
男性と肩を並べて活躍できる環境へ」

本瓦造船株式会社

  • 製造業
  • 福山市
  • 31〜100
  • 人材活用
  • 能力開発・キャリアアップ支援
  • 職場風土
所在地 広島県福山市鞆町後地1717番地
URL http://www.jade.dti.ne.jp/~hongawar/
業務内容 本瓦造船株式会社は、1949年に創業以来、船の製造に携わってきた。現在は、豊富な経験と独自のノウハウによる船舶建造技術を生かし、各種小型鋼船・鉄鋼構造物の製造及び修理を行っている。ケミカルタンカー、特殊タンク船、作業船を中心にこれまで500隻余りを建造している。
従業員数 73名
女性従業員比率 20.5%
女性管理職比率 0.0%

(2017年11月現在)

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代表取締役社長 本瓦 誠 氏

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  • 派遣従業員を正規従業員に登用、女性比率が3年間で6.0ポイント増加
  • 女性にとって働きやすい職場環境づくりと待遇見直し
  • 女性従業員比率を高め、営業部での女性活躍が外部評価にも

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1 派遣従業員を正規従業員に登用、女性比率が3年間で6.0ポイント増加

本瓦造船(株)(以下、本瓦造船)は、福山市鞆の浦に本社と工場を構える造船所で、昭和24年の創業以来、作業船から旅客船、貨物船、ケミカルタンカー等、総トン数5~499トンの様々な船舶を建造・修繕してきた。造船業界が属する「輸送用機械器具製造業」は製造業の中でも特に女性活躍が進んでおらず、女性従業員比率は16.0%であり、石油製品・石炭製品製造業0%、鉄鋼業12%の次に低い(図1)。

図1 製造業における女性従業員比率

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本瓦造船においても、かつては女性の定着率が低かったが、この2~3年で女性従業員比率、定着率ともに伸びつつある。この大きな要因は、女性の派遣従業員を積極的に正規従業員に登用してきたことだ。

平成24年頃から派遣従業員を増員し、家庭の事情等に合わせて個々に決めた時間内に働いてもらえるよう工夫をしてきた。このように、事情を考慮した働き方を認めたことで、派遣従業員が決められた時間内に最高のパフォーマンスを発揮するため、ON/OFFの切り替えを上手に行うようになり、これが正規従業員にも良い刺激となったという。

こうした中、2年前から「今後も本瓦造船で働き続けたい」という派遣従業員からの声を受け、会社内での評価が高かった「派遣従業員」を「正規従業員」として採用する制度をつくり、積極的に採用を開始した。この取組のきっかけは、本瓦専務取締役が前職で女性従業員比率の高い会社に勤めており、「女性パワーの重要性」を実感していたことと、本瓦造船の営業部で活躍する女性従業員を見て「当社でも女性活躍を進める必要がある」と認識したことにある。

これまでに行った派遣従業員から正規従業員への採用実績は実に5名。これは全派遣従業員の約半数になるという。派遣従業員側のメリットとしては「職場環境や内容、社風などを理解した上で入社を判断することができ不安が少ない」こと、会社側のメリットには「採用後の定着率が高い」ことがあり、お互いにWin-Winの関係だ。実際に採用した従業員は正規従業員に登用されたことでモチベーションが高まり、定着率も現在100%と良いそうだ。

このような取組を行った結果、同社の平成29年度の女性従業員比率は、取組前(平成26年度)と比べて6.0ポイント増の20.5%となった。女性の配置状況をみると、事務、営業、生産(品質・安全管理)、技術職(船体・生産設計、機関・管装設計)に各部門3~5名ずつ配置されており偏りもない(図2)。今後も派遣従業員から正規従業員への採用を積極的に行っていきたいと考えている。

図2 男女の職種別の配置状況

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2 女性にとって働きやすい職場環境づくりと待遇見直し

本瓦造船では、女性従業員の増加とともに、「女性にとっても働きやすい職場環境づくり」を進めている。

女性用トイレの数を増やしたり、男女兼用の作業服のズボンは自身で用意したものに替えてもよいというルールに変更するなど、柔軟な対応で女性従業員の意見を反映してきた。女性従業員の声が経営陣に伝わりやすい環境をつくることで、従業員の希望や意見を経営陣が吸い上げ、その都度改善を行っているという。今後は賃金格差の見直しや公正公平な評価を進めていきたいと考えているそうだ。

派遣従業員から正規従業員になった場合、新卒から正規で採用された同年代の従業員と比べて賃金が低い場合が多い。ボーナス等で配慮・調整している部分もあるが、従業員のモチベーションを向上させるため、さらには同一労働・同一賃金を目指すために早急な改革が必要だと認識している。また急激に増えた女性従業員に対して、上司がどのように評価すれば良いのか戸惑うこともあるという。これまで女性が少ない職場だったため、男女区別なく個々人の評価を行うということが、まだ難しい面もあるようだ。

3 女性従業員比率を高め、営業部での女性活躍が外部評価にも

「女性従業員が増加したことで、社内外とも良い変化がありました」と語るのは本瓦専務取締役。まず、社内で起こった良い変化は「コミュニケーションの増加」で、それによってより円滑かつ効率的に仕事ができるようになったと感じているそうだ。受けた指示に対し、コミュニケーション能力を発揮し仕事をスムーズに行ってくれる女性従業員に対して、社内の評価も高いという。

それから社外においては「女性が多く活躍している職場」ということでの認知度がアップしている。本瓦造船では、船舶の完成を祝う「進水式」には全従業員が出席する。式典に参列した社外の関係者が、同社の女性従業員が個客対応を行う様子を見て「御社には女性が多いですね」「女性はどのような部署で活躍しているのですか」と尋ねられるなど、造船業では従来あまり見かけない女性の活躍に驚く声を聞くことが多いそうだ。

加えて、同社の「営業部」の男女比率が半々であることにも注目が集まる。
女性と男性の間で営業の業務内容は変わらず、「顧客先を回る」「新規ルートの開拓」など何でもこなす。同業他社の営業職はほぼ男性であるため、女性の営業職員は大変目立つ存在になっているそうだ。

type2_hongawar_5.jpg新卒で本瓦造船に入社し、現在まで営業の最前線で活躍されている原田さんに話を伺った。
短大で勉強したCADの経験が生かせると思い、同社に入社。採用時に配属された営業部では、設計図面の作図から発注書の作成まで様々な仕事をこなした。当時、同部に配属された女性従業員は原田さん1人だけだったという。

入社3年目の妊娠が、原田さんの転機となった。当時は結婚したら退社という雰囲気であったため原田さんも退職を考えていたが、その当時の上司である営業部長から「これからの時代、そんなことで女性は辞めてはいけない。なにがなんでも続けなさい」という説得を受けて、仕事を続ける決意をしたという。

しかし、約1年間の産休と育児休業を経て復帰した1カ月後、原田さんを待ち受けていたのは、支えとなっていた上司の退職という厳しい現実だった。上司が担当していた顧客や新規顧客開拓の仕事を原田さんが担当するようになり、時短制度も整備されていない中で家族の助けを得ながら仕事にあたった。営業先の企業も男性中心であることが多く、女性の原田さんが訪ねると「女性が営業担当なの?」という雰囲気を感じることも少なくなかった。

それでも仕事だからやるしかないという覚悟と、「女性だから特別」という目で見られることを悔しく思う気持ちもあり、負けずに業務をこなしたという。次第に顧客や同僚からの信頼を得られるようになり、自分自身にも自信がつくとともに、いかなる状況でも逃げずに取り組むことの大切さも学んだそうだ。

そして、入社6年目で同部の主任に昇格。
「働く上でのストレスはもちろんありますが、お客様からの感謝に勝るものはありません。お客様と意見が食い違ったり、トラブルが発生することもありますが、お客様の数だけ答えがあり、日々起こるすべてのことを真摯に受け止め対応することで、トラブル解決後にはこれまで以上の信頼が生まれる等、やりがいを感じます。『いろいろあったけど、良い船を造ることができた』『次の船を建造する時も担当になってくれ』と言われた時はうれしいですね」と語る。

現在は、原田さんと同様に営業部で活躍する女性がもう1名いる。
彼女は先述した制度によって、派遣従業員から正規従業員に登用された従業員だ。大変な苦労をしながら造船業界で営業の道を切り開いている原田さんの姿は、会社にとっても、業界全体にとっても、また後輩にとっても、ロールモデルとしての期待が高まる。会社としても原田さんの後進が続くようにと全力でサポートし、女性活躍を推進したい考えだ。

原田さんのキャリアヒストリー

2008年~
本瓦造船に入社。営業部に配属され、発注書の作成、設計図面の作図、建造写真のまとめ、名刺の整理などを行う。

2011年~
初めての出産、子育てを経験。産休・育休を1年間取得。

2012年~
育休復帰後、同部に現職復帰。しかし、復帰後わずか1カ月後に支えとなっていた上司が退職し、1人で仕事をこなさなければならないことに。また「女性だから」と顧客から冷たくされることもあり、スランプに陥る。

2014年~
大変な状況の中でも頑張っている原田さんを会社が評価し、同部主任に昇格。
原価見積もりの作成や契約から引き渡しまでの一連の業務をこなす。
顧客先から信用・信頼を得始め、お客様からの「感謝」が会社を続ける原動力となっている。

取材担当者からの一言

広島県の基幹産業の1つである造船は「女性活躍」が進んでいない業界の1つだ。この背景には「船舶製造、修理は男性の仕事」という風土があるのではないだろうか。それには、最近関心を集めている「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)(※)」が大きく関係していると感じる。「きつい仕事を女性に任せるのは気の毒だ」「男性と同じように営業をこなすのは無理だろう」といった潜在意識が、女性の成長機会を奪い、意欲を削いではいないだろうか。

こうした中、本瓦造船には営業部で活躍している女性がいることを知り、驚くとともに、心から応援したくなった。女性比率が低い業界で、男性と同じように営業職をこなす女性の苦労は想像に難くない。今後、女性比率をさらに高め、営業部に留まらず、製造部の加工や組立等の様々な仕事に女性が入っていけば、人材不足に対応できるだけでなく、その能力の発揮により業績にも貢献するであろう。本瓦専務取締役は「これまでの男性・若者・新卒・日本人を重視していた人材活用方針から、女性・年配者・中途・外国人にも積極的に目を向けたい」と語っており、本瓦造船には業界の牽引役として期待したい。

※差別する意図がないのに、生来身についた価値観が判断をゆがめ、活躍を阻む言動に走ってしまうこと。

type2_hongawar_6.jpg●取材日 2017年11月
●取材ご対応者
専務取締役(人事・財務・総務担当) 本瓦 歩 氏
営業部 主任 原田 真依子 氏