女性活躍優良事例

「24時間営業、離職率の高いホテル業界の
常識を覆す施策を次々に」

株式会社A・I・C広島マネジメント(シェラトングランドホテル広島)

  • その他産業
  • 広島市
  • 101〜300
  • 両立・継続支援
  • 能力開発・キャリアアップ支援
  • 登用
  • 職場風土
所在地 広島県広島市東区若草町12-1
URL http://www.sheraton-hiroshima.jp/
業務内容 現在124の国と地域に30のブランド、6,100軒以上のホテルを擁するマリオット・インターナショナルが展開するブランドであるシェラトンは、世界70の国と地域に450軒以上あり、2011年、広島駅直結という好立地に同ホテルをオープンし、開業からわずか5年後の2016年6月にはシェラトンブランドの中でもワンランク上のプレミアムカテゴリーに属する「シェラトングランド」の名を冠することとなった。A・I・C広島マネジメントはシェラトングランド広島の経営を行う会社である。
従業員数 234名
女性従業員比率 57.6%
女性管理職比率 23.0%

(2017年11月現在)

type2_aic_2.jpg
シェラトングランドホテル広島 総支配人 山本 博之 氏

seika_header_sesakuyaseika.png

  • ホテル業界全体の課題である定着率の低さを改善し、直近3年で退職率半減
  • 24時間体制で営業するホテルながら、子育てや家庭の事情との両立へ配慮
  • 入社面接時にキャリアビジョンを聞くなど、早期から女性のキャリアアップを後押し

seika_footer.png

1 ホテル業界全体の課題である定着率の低さを改善し、直近3年で退職率半減

「組織が従業員を大切にすると、従業員も自然とお客様に対しての手厚いおもてなしができるようになります」。これは運営会社であるマリオット・インターナショナルの創始者J.W. マリオットの言葉であるそうだが、A・I・C広島マネジメントもこの方針に則り、年に1度、全従業員を対象とした従業員満足度調査を実施している。その調査の結果を踏まえ課題を抽出し、ホテル全体、また各部門・部署において、PDCAサイクルにより、改善策立案と実行、また施策の効果測定などを行う。これは、各従業員からの意見を吸い上げ、次年度の改善へとつなげることで、従業員の満足度向上を目指すものだ。

その中で、A・I・C広島マネジメントが認識した課題の1つに「従業員の定着率向上」があった。これは、宿泊業界全体の課題でもあるようで、厚生労働省の調査によると、宿泊業・飲食サービス業における大学卒業3年後の離職率は50.2%と、生活関連サービス業、娯楽業の46.3%を上回り、離職率が最も高い業界となっている(図1)。

図1 平成26年3月新規大卒就職者の3年目離職率(産業別)
type2_aic_3.jpg


津田人事部長によると、一般的にホテル業界は一企業の離職率こそ高いが、キャリアアップを求めた同業他社への転職率が高い業界なのだという。津田人事部長自身も、大阪のホテル等から転職してキャリアアップを図ってきたそうだ。しかし、A・I・C広島マネジメントにおいては、「地元の他業種からの転職者」または「ホテル業界を強く志望する新卒者」がほとんどであり、せっかく入ってきた人材を辞めさせるのは本意ではないと考えた。

そこで、定着率向上に向けた解決策の1つとして、平成27年から3年間かけて契約社員を正規雇用従業員へと任用替えを実施した。直近4年(平成26年度実績から平成29年度の予定まで※1)の離職率を比較すると、退職した従業員の数は約52%減と半減しており、その効果は確実に表れている。

その他の取組としては、従業員にキャリア目標を持たせ、いかに個々の教育を行い成長させるか、魅力あるキャリアを提示するかが課題となっており、5~10年以内に地元出身の従業員の定着率と管理職比率を向上させていく考えだという。

※1 年度期間は1月から12月までのカレンダーイヤーとしている

国際女性デー(3月8日)に、女性従業員が集合しイベントを行った時の様子
type2_aic_4.jpg

2 24時間体制で営業するホテルながら、子育てや家庭の事情との両立へ配慮

平成29年度の従業員満足度調査で課題に挙がったのは、「業務分配の平均化」と「ワークライフバランスの向上」、つまり働きやすさに関する事項だったという。

サービス宿泊部やレストラン部においては、勤務形態が「変形労働時間制」(早朝や深夜時間帯も含めた「シフト制」)であるため、休みが取り難いという背景がある。厚生労働省の調査からも裏付けられるように、宿泊業・飲食サービス業の所定労働時間は40時間6分/週と全産業の中で最も長く、年間休日総数は95.7 日と全業界で最下位となっていることから、宿泊業界全体の課題といえそうだ(図2)。

図2 1企業(平均)の年間休日と週所定労働時間(産業別)
type2_aic_5.jpg

しかし、A・I・C広島マネジメントにおいては、結婚・出産といったライフイベントを機に離職する女性従業員はほとんどいない。

そのカギとなるのは人事部の取組のようだ。
「一人ひとりの従業員と話をし、個人の事情を酌むべき」との考えで、個人に合わせた配慮をすることで、ワークライフバランスを実現させる社風を目指して努力しているという。「話をして個々の希望や考えを聞いた上で、お互いの妥協点を見つけ、働きやすい環境をつくろう」というのは、女性従業員だけでなく男性従業員に対しても同じだ。

type2_aic_6.jpg例えば、産休育休から復帰する際には面談を実施し、子供の預け入れを予定する保育園・幼稚園の開園時間や送迎にかかる時間、周囲の協力なども踏まえ、家庭の事情に可能な限り配慮した勤務ができるよう配置や時間帯の調整を行う。具体的には、休業前に「24時間交代制勤務」となるサービス宿泊部のような配慮が難しい部署に所属していた従業員には、レストラン部に配置転換することで、家族の協力が得られやすい早朝中心の勤務形態にするなどの対策が実施されている。


3 入社面接時にキャリアビジョンを聞くなど、
早期から女性のキャリアアップを後押し

A・I・C広島マネジメントにおける女性従業員の比率は57.6%と半数を超える。また、女性管理職比率は23.0%となっており、業界平均より高い(※2)が、マリオット・インターナショナルとしては目標数値を30%に設定しているため、その達成に向けた具体的な取組を尋ねた。

A・I・C広島マネジメントでは、採用の段階から管理職育成を意識して、採用時に「キャリアアップを希望するか否か」のヒアリングを実施する。入社希望者のキャリア目標を確認し、自分自身の将来ビジョンを明確に持った人物を採用することが登用への近道になるという。さらに、入社後には数年先のビジョンをより具体的にする「キャリア面談」などを実施することで、個人のモチベーションの向上も図っているそうだ。

平成23年の開業当時は、グループホテル、又は他のホテル等からの転職者で管理職が構成されており、男性管理職が多かった。7年目となる平成29年には、開業に際して採用した若手従業員が徐々に育ち、他業種から転職してきた従業員も含めて管理職の登用が進みつつあるところである。

他業種からの転職者、セールス&マーケティング部に在籍する女性セールスマネージャーの大方さんもその1人だ。現在、部長とともに3名の部下を率いてホテルでの宴会や宿泊の企画販売を行っている。

type2_aic_7.jpg学生の頃から国内・国外問わず旅行が好きだったという大方さんは、大学を卒業後、大手旅行会社に入社。関西で法人営業を担当し、企業等の会議や報奨・研修旅行、イベント等をお客様のニーズに応じたオーダーメードで企画提案し、受注時には添乗員として同行していた。

企画力だけでなく、添乗員としての機知に富んだ対応力と状況判断能力、コミュニケーション能力や、体力・精神両面のタフさが要求される業務である。

「お客様の様々な反応や意見を直接伺い、それに応えることが業務への励みになった」と大方さんはいう。「お客様の驚く顔、喜ぶ顔を見ると、私もうれしくなります」との言葉どおり、様々な仕掛けでお客様を喜ばせるための努力を惜しまない人だ。

一例を挙げると、スウェーデンでの企業の報奨・研修旅行の企画において、通常はフランスやドイツを観光経由地として利用することが多いが、大方さんはロシアのサンクトペテルブルクを観光経由地として提案し、お客様に新しい驚きを提供し、受注へとつなげたという。

お客様との人間関係を構築していく楽しさや学びが多くある反面、新規営業の大変さもあったと話す。当時、業界内では女性の営業職は珍しかったというが、着実に経験を積み重ね、その後営業係長に昇格してからは活躍の幅をさらに広げた。

しかし、「ワーキングホリデー(※3)のビザ申請が可能である20代のうちに海外で働きたい」と、大手旅行会社を29歳で退社。在職中、日本語教師を目指し、日本語教育能力検定(※4)を取得した大方さんは、フランス・パリで高校生から社会人を対象とした日本語契約講師として教鞭をとった。「パリに住むことは憧れでした。海外に暮らすことでより広い視野を身につけることができました」と笑顔で当時を振り返る。

ワーキングホリデーを終え、予定通り1年で帰国。地元である広島県でシェラトンホテルの開業準備中であったA・I・C広島マネジメントに入社し、開業準備室所属となった。まず着手したことは、広島県内において認知度の低いシェラトンブランドを広めることだった。オープン後も広島県内を中心とした一般企業への営業活動を行う中で、リピーターや応援してくれるお客様が徐々に増えたことが業務における原動力となった。日々業務に邁進し、キャリアアップを重ね、平成26年に管理職であるマネージャーに昇進。忙しい日々ではあったが、当時は休日にボランティアの日本語教師としての活動も続けていたといい、今でもONとOFFの切り替えをうまく行うことで仕事にも全力投球できていると話す。

同社への入社から6年目の平成28年には、社会人経験や日本語教師の経験を活かし、国際社会で役に立てることがしたいという気持ちから、独立行政法人国際協力機構(略称、JICA)を通じてドミニカ共和国に派遣されることとなった。

派遣にあたり、大方さんは同社の退職を希望したそうだが、会社側が引き留めたという。大方さんはお客様との信頼関係を構築していることから、会社として必要かつ優秀な人材を逃したくなかったのはもちろんのことだが、多様な働き方や個々の希望に沿った人材育成を推進していかなければならないと確信し、これを1つのモデルケースとしたいから、というのがその理由だったという。

会社側と本人で話し合いを重ね、1年間の休職を決めドミニカ共和国に渡った。ドミニカ共和国では、日本語や日本文化の教育、学校の運営や若手教師育成のための研修会などを企画し、リーダー的な役割を果たしていたそうだ。

1年の派遣任期を終えて帰国し、セールスマネージャーとして同社へ復職した大方さん。休職以前は「自分の成績」を中心に考えていた大方さんだが、ドミニカ共和国での派遣経験を通じて「チームの管理」を重要視するよう意識が変わったそうだ。一人ひとりの能力を向上させることで営業部全体のボトムアップを図り、チームとして成果を出すことや、一緒に働くメンバーが働きやすい環境づくりの重要性に気付いたからだという。

「自分が動くだけでなく人を動かす、チーム全体が強くなるためにマネジメントを行う。与えられた役割や環境で最大限の努力をして仕事をする。これらのことが、ひいては自分の可能性も広げることになると考えます。またポジティブに、今ある状況を楽しむ努力をすることも大切だと思います。もっと人間的に成長できれば、将来的には、人材育成の分野で仕事をしてみたいと思っています」と、ますます高みへと向かう夢と今後のビジョンについて語ってくれた。

※2 宿泊業、飲食サービス業における平均女性管理職比率(平均)は21.0%
出典:厚生労働省『平成28年度雇用均等基本調査 図9 産業別女性管理職割合 課長相当職以上(役員含む)(企業規模10 人以上)』

※3 ワーキング・ホリデー制度とは、二国・地域間の取決め等に基づき、各々が、相手国・地域の青少年に対し、休暇目的の入国及び滞在期間中における旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度。主に査証申請時の年齢が18歳以上30歳以下であることが求められる(出典:外務省)

※4 日本語教員としての専門的知識・能力を測定する試験として、昭和62年度から、「日本語教育能力検定試験」が実施されている。420時間の教育課程が必要。

大方さんのキャリアヒストリー

2002年~
新卒で入社した関西の旅行会社で法人営業を担当し、お客様のニーズに応じてオーダーメードの国内・海外旅行やイベント等を企画。

2009年~
キャリアアップのため、旅行会社を退職後、ワーキングホリデー制度を利用し、フランス・パリで高校生から社会人を対象とした日本語教師の契約講師として勤務。

2010年~
A・I・C広島マネジメントへ入社。前職の営業で培ったノウハウをもとに、開業準備室で「シェラトンホテル広島(現シェラトングランドホテル広島)」の営業を行う。

2016年~
1年間の休職。独立行政法人国際協力機構(略称、JICA)を通じ、ドミニカ共和国へ派遣される。

2017年~
A・I・C広島マネジメントに復職。セールス&マーケティング部マネージャーとなり、現在に至る。

取材担当者からの一言

今回話を伺った津田人事部長は、「女性の地位向上については地域全体が早急に取り組むべき課題だと感じています」と真摯に受け止めており、その対策としてマリオット・インターナショナルにおける従業員満足度調査の他にも、A・I・C広島マネジメント独自の取組として、ジョブローテーションや勤務時間への配慮といった対策を講じている。また、女性管理職 である大方さんへの対応のように、個々の従業員の事情を踏まえ、退職ではなく休職という形で海外ボランティアへ送り出すなど柔軟な対応もある。

取材でお話をうかがった大方さんは、働きながらも時間を上手く「やりくり」して夢を実現し、2度の海外経験と仕事の相乗効果で人間力を磨き、しなやかに管理職として活躍する様子が印象的だった。このように、育児や介護等家族の状況に応じた制度だけでなく、自分を磨くための休業を企業が認めることで得られる効果も双方にあるはずだ。

具体的には、大方さんは1年の休業において語学力、マネジメント力等を高めていることに注目したい。人材育成の手法は様々あるが、プライベートで培われた経験等を生かしたキャリアアップの手法がもっと一般的になれば、これまでにない多様な人材の確保につながるのではと感じる。自社内での育成だけが全てではないと気付かされた。

従業員の定着や長時間労働の是正をはじめとする働きやすい環境の実現は、宿泊業界の共通の課題である。その対策として一般的には、業務の再構築やマルチタスク化、ITの利用などによる「業務の効率化」と「業務負荷分散や軽減」などが考えられるようであるが、A・I・C広島マネジメントにおいてもさらなる取組を実施し、観光業の活性化を目指す広島県における成功事例となることを期待したい。


type2_aic_8.jpg●取材日 2017年11月
●取材ご対応者
人事部 部長 津田 秀紀 氏


type2_aic_9.jpg人事部 アシスタントHRマネージャー 浜村 真佐実 氏
セールス&マーケティング部 セールスマネージャー 大方 芳恵 氏
セールス&マーケティング部 Marketing/PRスーパーバイザー 山本 陽子 氏