女性活躍事例一覧

「時代と従業員の声に耳を傾けた組織改革で確かな成果を」

株式会社虎屋本舗

  • 卸売業・小売業
  • 福山市
  • 31〜100
  • 両立・継続支援
  • 職場風土

社名 株式会社虎屋本舗
本社所在地 広島県福山市曙町1-11-18
URL https://www.tora-ya.co.jp/
業種 卸売業・小売業
事業概要 株式会社虎屋本舗は1620年に菓子匠として福山市曙町で創業。1622年に開発した「左義長」(現在のとんど饅頭)をはじめ、時代にマッチした和洋菓子を製造販売し、もうすぐ400年となる老舗である。スイーツをたこ焼きやお好み焼きに模した「本物そっくりスイーツ・シリーズ」が全国テレビや雑誌に取り上げられ、話題となった。福山市内を中心に10店舗を運営している。
従業員数 80名
女性従業員比率 62.5%
女性管理職比率 62.5

20187月現在

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代表取締役社長 高田 信吾氏

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  • 販売の主力である女性従業員の働く上での不安要素をなくし、長期的な活躍を支援
  • 新卒採用を開始したことで組織全体に好影響
  • トップが率先して積極的に社風を変えてゆく
  • リーダーシップを持った女性従業員によるチームづくり

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1.販売の主力である女性従業員の働く上での不安要素をなくし、長期的な活躍を支援

福山市内を中心として10店舗を展開する株式会社虎屋本舗(以下、虎屋本舗)は、女性従業員比率が62.5%、また女性管理職比率も62.5%と非常に高い。女性従業員50名のうち40名が店舗販売に従事し、このうち36名はパート従業員である。

3年ほど前から、人が足りないのに募集しても集まらないという人材不足感が高まった。そこで、虎屋本舗では、今いる人材に長く勤務してもらうため、パート従業員が抱える「働き続ける上での不安要素」の排除が必要だと考え、2つの施策を取った。その2つとは、パート従業員の労働時間を安定的に5.5時間としたことと、正規従業員への登用である。

かつて虎屋本舗では、パート従業員の1日の勤務時間を6時間としていたが、繁忙期にはそれ以上の勤務を要請することもあったため、比較的閑散期には勤務時間を短縮するなどしていた。働く時間が変動するということは従業員の月収も変動する。時間と収入が一定でないことが従業員の不安要素につながっているのではないかと虎屋本舗は考え、パート従業員の勤務時間を常に5.5時間とすることとした。これによりパート従業員は、業務終了後のプライベートの予定を組みやすくなった上、1年を通して安定した月収を得ることができるようになった。お盆や年末年始といった年4回の繁忙期の対策としては、過去虎屋本舗に勤めていた75歳以上のベテランパート従業員に高田恵美専務自らが声を掛けて、勤務を促すことにした。ノウハウと経験を持つベテラン勢の協力により、店舗販売の繁忙期を乗り越えることができているそうだ。

もう1つの施策は、パートの正規従業員への登用である。優秀な人材に対しては積極的に正規従業員になることを働きかけ、店長として活躍してもらう。「パート従業員のままがいいから、店長であってもパートのままでいたい」と申し出る女性も少なくないが、虎屋本舗では従業員との面談を重ね、事情に合わせてパートか正規従業員か本人に選択を促し、従業員一人一人に応じた対策を取った。例えば、ある女性店長は夫の扶養に入っていたためパート従業員のままでいることを希望していたが、夫の定年を機に、正規従業員への登用を受け入れたという。

このような施策を講じたことで、働く上での不安要素を減らし、パート従業員個々人の事情に合わせた「働き続けやすい」職場環境が整い、離職防止へつながったという。

2.新卒採用を開始したことで組織全体に好影響

老舗の「のれん」をどのように守り受け継いでいくか。80名の従業員を抱える虎屋本舗の経営層が常に抱える課題である。

ベテランの職人や販売員の活躍は目覚ましいが、同社の平均年齢は52歳。食料品製造業の平均年齢44.3歳(※1)と比べると高い数字となっている。しかし、若い世代も職場にいなければ、世代を越えた伝承が行われず、創業400年の伝統が廃れ、途切れるのではないかと高田社長が懸念。前述のパート従業員の正規従業員登用施策と同じく、3年前の2015年から新卒採用を開始した。

長らく新卒採用を行っていなかった虎屋本舗であるが、新卒採用は良い意味で虎屋本舗の固定観念を崩すこととなった。従来、販売は女性、製造は男性の職人という役割分担のイメージが社内で強かったが、新卒の従業員は販売、製造といった各配属先で性別関係なく業務を全うし、それぞれの個性に応じた能力を発揮し始めたからだ。虎屋本舗では従来から、70歳以上のベテラン職人の身体的負担の軽減を図るために、製造現場の機械化を推進してきた。この結果、女性にとっても働きやすい職場環境になり、配属した新卒の女性従業員も活躍しているという。また、販売に新卒の男性従業員を配属したところ、こちらも同様の結果が出たそうだ。この経験から、虎屋本舗では、性別に関係なく個人の資質を重視して配属する重要性を実感したという。

新卒採用は世代間の「伝統の継承」といった側面だけでなく、ベテラン従業員にとっても「後輩指導」「世代間での教え合い」などの刺激があり、組織の活性化につながった。若手にはベテランの教えが必要なように、ベテランも若手に「業務を教える」ことを通し、襟を正して業務に臨むようになるという相乗効果が生まれているそうだ。

※1 厚生労働省「平成29年賃金構造基本統計調査」製造業―企業規模計10~99人

3.トップが率先して積極的に社風を変えてゆく

会社としては、従業員を何としても手放したくない。なぜならば、パート従業員も含め新人従業員の育成には最低でも2カ月は必要となる。しかし、従業員の入れ替わりが少なければ、安定的にお客様への質の高い接客等が可能になるほか、新人育成のコスト削減にもつながるためである。つまり、一人の従業員に長く働いてもらう方が会社としてはメリットが大きい。

虎屋本舗が社風を変えていくにあたり、まず経営層から「女性従業員は結婚したら辞める」という思い込みを改めた。時代の変化に対応した働き方や人材活用を推し進めたのは、経営者の一人で、いわゆる女将である高田恵美専務だ。

高田専務は、パート従業員を含めた全従業員と定期的に面談の時間を持ち、各従業員の事情や性格を酌んだ上で配置転換などを行う。産休中の従業員には定期的に連絡を取り、様子を尋ねるとともに復職を促す。離職しそうな従業員がいると知ればすぐに話をし、退職を防ぐ。高田専務は「従業員の心に寄り添い、退職の芽は細やかに摘む」努力をしているそうだ。

また時代の変化に応じた対応も率先して行う。例えば“マタニティハラスメント(以下、マタハラ)”の防止だ。何をすべきなのか、また何をしたらダメなのか、が分からない従業員等に対しては、どのような事例がマタハラにあたるのか、またマタハラがいかに組織にとってマイナスとなるかを高田専務自らが直接話すようにした。広島県が作成した「働く女性応援よくばりハンドブック」などを使い、丁寧に伝えたという。

高田専務自らが率先して動き続け、虎屋本舗としての「どの従業員にも長く活躍してもらう姿勢」を従業員に示し、啓蒙活動を続けることで、社風の変革に努めているそうだ。また新卒の従業員が育ち始め、これから迎えるであろう結婚や出産等ライフステージの変化による退職を防ぎたいという。

4.リーダーシップを持った女性従業員によるチームづくり

新徳田店の店長である山賀直美さんは、パート従業員から正規従業員に登用され、店長となった一人である。前職では和菓子の製造現場で働いていたが、虎屋本舗にパート従業員として入社し、販売担当として岡山県の店舗で働き始めた。

今まで経験のない接客業ではあったが、製造現場で培った知識と経験を生かし、適切な保存方法のアドバイスやお菓子ができる仕組みを踏まえながらお客様とコミュニケーションを取った。虎屋本舗は数多くの種類のお菓子を取り扱い、2カ月毎に1種類の新商品が販売される。お菓子の名称や行事への対応、熨斗や包装の適切な使い分けなど、販売員として覚えないといけないことは多岐にわたり、大変苦労もあったという。入社して10年たったころ、正規従業員となり、新徳田店の店長に登用された。高田専務いわく「真面目でお客様対応が丁寧、字もきれいで細かなことにも気が付く人柄で、安心して店長を任せられる存在」だそうだ。2018年7月の西日本豪雨災害では、新徳田店舗内は、くるぶし丈ほど水に浸かった。従業員の身を案じて高田専務が止めたにもかかわらず、山賀さんは翌朝すぐに出勤し、店舗を片付け、素早い営業再開にこぎ着けたという。

現在は、新徳田店の店長として商品発注、季節ごとの店舗のデコレーションや包装など、全てを取り仕切る立場だ。山賀さんはチームプレーが大切という。過去のデータや、世間のトレンド等から店長とパート従業員4名が一丸となって意見を出し合い、商品をどう見せて、どう売るかといった方針と具体的なやり方を決めるそうだ。例えば、取材時は夏であったため、ヒマワリと金魚柄の手ぬぐいを使ったパッケージデザインの贈答用セットを開発し、お客様の購買意欲を刺激するなどの工夫を行っていた。

常に季節やイベント対応に追われて忙しい日々ではあるが、おすすめ商品がヒットすると店舗一丸となって大喜びし、みんなで達成感を共有するという。業務などで不安な時には専務に質問し、助けてもらうそうだ。

「忙しいし、時間に追われますが、達成感があります」と山賀さんは笑顔で教えてくれた。

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取材担当者からの一言

虎屋本舗では、パート従業員をはじめとする女性従業員がなくてはならない存在である一方、人材不足に悩んでいた。しかし、ターニングポイントは2015年から始めた、人事施策ではないだろうか。長く勤務してもらうためにパート従業員の勤務時間を平準化し、優秀な人材は正規従業員への登用を促す。新卒採用の従業員については、固定的性別役割分担意識を打破して個人の能力や資質で配属するなど、トップが時代に合わせて素早くアクションを起こし、成果につなげている。

また、虎屋本舗では従業員の身体的負担の軽減や長時間労働の対策として、以前から製造部門における機械化を進めてきた。これにより生産性が6倍に向上しただけでなく、かつては「手で作らないとおいしくないのではないか」などと考えていたそうだが、いざ導入をすると手で餡を包むより素早くできるため、商品が酸化しにくくなり、味のメリットもあったそうだ。

時代に合わせて変化していくことが、老舗の「のれん」を守る秘訣であると改めて感じた。

●取材日 2018年7月

●取材ご対応者
取締役専務 女将 高田 恵美 氏
新徳田店 店長 山賀 直美 氏