働き方改革実践(認定企業)取組企業事例一覧

トップの明確な意思表示と、絶えず状況を確認しながら
実行し続けることで、生産性を落とさず取組も定着

三光電業株式会社

  • 卸売業・小売業
  • 広島市
  • 101〜300
  • 推進体制(経営者)
  • 長時間労働の削減
  • 休暇取得の促進
認定マーク
所在地 〒733-0833 広島県広島市西区商工センター5丁目11番7号
URL http://www.sumnet.co.jp/
業務内容 FA用電子部品・制御部品の販売、産業機械の販売、FA用ライン管理システムの企画・設計・提案など
従業員数 139名(男性97名、女性42名)

(2018年2月現在)

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  • 有給休暇の一部は前年に日程を決め計画的に取得
  • 自己啓発やリフレッシュのための「早帰りデー」を導入
  • 改革を阻むのは油断。PDCAサイクルを継続して回すことで一層の改善を図る
  • トップダウンだけでなく、従業員の意識改革や行動変化を促す
  • 従業員が効率的な働き方に取り組むことで、売上もアップ

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従業員に人生の幅を広げてもらいたい

トップダウンで、指定有給制度・早帰りデーを導入

type1_sankodengyo_2.jpg長時間労働の削減や年次有給休暇の取得促進などに向けた働き方改革に取り組みながら、直近決算期の売上高が過去最高を更新するなど、成長を続ける三光電業株式会社。
同社の働き方改革の方針である「全従業員が安心して仕事に取り組め、その能力を十分に発揮することができる環境整備」は、「家族や私生活を含めた自分の人生をより豊かにするために働いて欲しい」という代表取締役の森脇喜美代氏の思いが原点にある。

森脇氏は、ある時、自身の人生を振り返り「自分はこれまでずっと働き続けてきたが、仕事以外の自分の人生に何も豊かなことをしていない。従業員も自分と似たような生活を送っていることはないか。このままでいいのか」と考えたという。働き方改革という言葉が世の中に出る5年以上も前のことだ。


type1_sankodengyo_3.jpgそこで、最初に取り組んだのが「指定有給制度」と「早帰りデー」である。
まずは有給休暇を取得しやすい会社にしようと、平成23年に年間5日、あらかじめ指定した日に休む「指定有給制度」を導入。その背景には、昔からのベテラン従業員には仕事を休むという発想自体がない一方で、若手の従業員は有休の権利を主張するという、チグハグな社内の雰囲気を解消したいという思いがあった。前年の12月に従業員自身が、翌年1年間分の指定有給5日を決めて、届け出をする。これを部署の管理職が確認し、部署内の従業員の休暇がなるべく重ならないよう調整する。こうすることで、従業員の誰かが有休で不在になっても部署単位でカバーできる体制や、指定した日は休むものだという雰囲気も生まれはじめたという。

また、平成24年には、リフレッシュや自己啓発のための時間がとれるよう「早帰りデー」を導入。毎週水曜日を、原則残業禁止とし、終業後すぐに帰宅させるようにした。ただ、導入当初は早帰りデー以外の曜日の残業が増加したという。「従業員の中に『水曜日は早く帰るのだから、他の曜日は遅くなっても仕方がない』という意識や、残業することで会社に貢献しているような気持ちがあったのではないかと思います」と森脇氏。このままでは、他の曜日に早帰りデーのしわ寄せがくるだけで、従業員の負担自体は軽減されない。そこで、残業に申請方式を採用し、何のためにどのくらい残業を行うのか、上司がチェックすることで無用な残業を防止した。

改革を阻むのは“油断”

PDCAサイクルを継続して回すことで、改善を促進

type1_sankodengyo_4.jpgこのような取組は、休暇取得と長時間労働の削減に対して一定の効果があった。しかし、年次有給休暇の取得率は30%付近で留まり、また、特定の部署では残業時間がある時点から横ばい状況で改善が進みにくいなど、取組状況に停滞感が生まれたと言う。「最初の取組が進み始めたところで油断があったのかもしれません。社内全体の取組を進めようという空気に緩みが生じていました」と森脇氏。

そこで、同社は、平成28年に、半年間を集中取組の期間として、もう一度しっかりとPDCAサイクルを回す方法に取り組んだ。これまでの取組の効果や課題などを、憶測に頼らずにしっかりと把握し、一層の改善を図ることにしたのである。

まずは【準備】段階(P)として、佐藤取締役を働き方改革の推進役に任命して責任者を明確にした。また、経営者層を含む全従業員へのアンケート調査や、残業時間が横ばいになっている部署の従業員を対象としたヒアリング調査で『現状把握』を行ったという。
その結果、指定有給制度・早帰りデーといった制度自体は従業員に認知されているが、制度の背景にある経営者層の“なぜ取組を進めようとするのか”という思いが、期待していたほど従業員に理解されていないことが分かった。さらに、仕事と生活の両立に対する意識や、時間管理意識が不十分といった課題も浮き彫りになった。

この結果をうけ、【仕組みづくり】段階(D)では、そもそも「なぜ会社は働き方改革に取り組んでいるのか」「従業員にどのようになって欲しいのか」という思いを従業員に理解してもらうため、『社長からのメッセージ発信』を行うことにした。これは、通常の社内伝達方法に寄らず、社長の思いをインタビュー形式でとりまとめたパンフレットを作成し、全社集会の場で全従業員に配付して、社長自らの言葉で語りかける形で実施された。会社を挙げて取り組む姿勢を示した結果、趣味やリフレッシュのための休暇取得が進むなど、従業員の意識や行動に一定の変化が見られたという。

さらに【行動】段階(C)として、仕事と生活の両立や、時間管理について従業員の意識を高めるための研修会を開催するなど、『全社的な意識改革』を行った。加えて、残業時間の減らない部署ごとにプロジェクトチームを立ち上げ、『業務改善』に取り組んだ。これは、各部署の管理職が中心となって、部下に対して自身の時間外労働の原因を整理させ、効果と時間軸による優先順位を踏まえながら、改善策を検討・着手する形で進められた。当初は「何をどのようにすれば良いか分からない」などと戸惑う従業員もいたが、取組を進めるにつれ、各自の見積作成や仕入れ先情報の整理作業に重複がある、目的が曖昧な会議があるといった業務のムダや課題が次第に浮き彫りになったという。これにより、整理作業結果のデータベース化が進み、時間設定等の会議のルール化などの改善策が講じられるなど、非効率な業務の改善が進んだ。

そして【点検・見直し】段階(A)として、半年にわたる集中期間の取組効果を客観的に把握するため、再度、『従業員アンケート調査』を行い、従業員の意識変化の度合を確認した。その結果、約8割の従業員で仕事と生活の両立や時間管理の意識が高まり、また約9割の従業員が取組継続の必要性を感じていることも明らかになった。さらに、こうした意識の変化は、成果としても結実。残業時間は減少(前年同期比で、プロジェクトチーム全体で約230時間/月、一人あたりでは約2時間/月の減)し、有給休暇の取得率も向上(前年同期比で、約10%向上)した。

従業員の意識改革や行動変化が生産性の向上につながる

トップと従業員の思いの共有が取組を加速

type1_sankodengyo_5.jpg森脇氏は平成28年の集中取組期間についてこう振り返った
「ある管理職から、どこまで本気なのかという質問がありました。社内課題の中でも優先事項として取り組むと返答したのですが、その後、その管理職は担当部署で率先して取り組んでくれるようになりました。やはり、経営者の本気度を示していくことが重要だと再認識しました。また、以前の取組の大半は経営者主体で進められたものであり、従業員が主体性を持って改善に向かうという流れは弱かったように思います。しかし、この取組期間中に、従業員と思いを共有し、従業員の中に自らの仕事を見直す習慣が生まれたことが、結果として成果に現れたと考えています」
集中取組期間の前は30%前後だった有給休暇の取得率が、改革の加速で、H29年には60%を超えるようになった。

「利益の3分の1は会社に残しますが、3分の1は人材育成に利用し、残り3分の1は職員に分配しています」と森脇氏。人材育成のために、月1回は外部講師を招いて研修会を開催。また、国際ロボット展へは毎年30~40名の職員を派遣する。その他、スキルアップ研修や講習会への参加も積極的に支援する。
長時間労働の削減により生じた成果は、従業員にも手当等で分配している。子どもが20歳になるまで、1人につき毎月1万5千円を会社独自の子ども手当として支給。さらに、賞与に併せて、毎回5万円を「配偶者賞与」として支給する。手当だけでなく、社員旅行も会社負担で実施。社員旅行は単なる福利厚生だけではなく、社内コミュニケーションの円滑化にも寄与しているという。



type1_sankodengyo_6_2.jpg購買部主任の岡田さんは「水曜日の早帰りデーには会社の会議室を借りて、職場の仲間たちと和太鼓クラブの練習を行っています。会社の近くで毎年祭りが開かれるので、メンバーで演奏参加して、日頃の練習の成果を披露しています。指定有給制度ができて前もっての休みも取りやすいので、友達や家族と旅行も楽しんでいます」と笑顔で話す。


最後に、森脇氏に、これから取組を行う企業に向けてのアドバイスを伺った。
「重要なのはトップが明確な意思表示を行い、絶えず状況を確認しながら、実行し続けることです。仕組みや制度を整えるだけなら簡単ですが、これを定着させ、さらに定着した状態をキープするというのは本当に大変なことです。しかし、大変だからといって、取り組まなければ、いつまでたっても働き方改革は進みません。当社でも、取組前は売上の減少を懸念していましたが、従業員自らが効率的な働き方を考えてくれるようになり、目標を上回る売上を達成することができました。ぜひ強い思いを持って、取組を続けていただきたいと思います」