働き方改革事例

ボトムアップは停滞、トップダウンで推進強化
業界の常識を変え、従業員の意識も変革

二村自動車株式会社

  • 卸売業・小売業
  • 広島市
  • 31〜100
  • entrydatajireikaikaku2-01
  • entrydatajireikaikaku2-03
  • entrydatajireikaikaku2-10
認定マーク
所在地 〒731-0143 広島市安佐南区長楽寺2-6-18
URL http://www.neos-group.co.jp/
業務内容 自動車販売・整備・ボディケア
従業員数 99人(男性81人 女性18人)

(2019年9月時点)

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  • ボトムアップからトップダウンに転換
  • 業界の常識に疑問を、納引き業務の削減
  • 午後8時以降メール禁止が従業員の意識を変革
  • 「捨てる業務」決め、店長がマネジメントに注力

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取り組んだ背景 〜顧客第一主義による長時間労働の解消へ

nimura_01.jpg自動車販売や修理などの関連サービスを展開。「何か働き方改革に取り組まなければと、ずっと考えていました」と語るのは、代表取締役の二村一弘氏。顧客第一主義による長時間労働が常態化しており、数年前に「ノー残業デー」を設定したものの、事故対応など時間を選べない業務が多く「全く浸透しなかった」という。さらに、従業員の働く時間が短くなることで「サービスの質が下がるのでは」という恐れもあった。加えて、人材確保も厳しい時代。質を保ったまま生産効率を上げ、長時間労働の解消、人材の確保といった複合的な課題を解決する実践的な改革が急務だと考えたのが、本格的に取組に着手したきっかけだった。

主な取組と工夫点

ボトムアップが停滞、トップダウンへ転換

従業員アンケートから現状を分析し、働き方改革に向けたキックオフセミナーを開催。速やかに推進委員会を設け、ボトムアップ形式で改革を始めた。ところが数カ月経過しても具体的な改善活動は進まなかったという。原因は「従業員の中にある不安でした」と、二村氏。個々の業務については的確に判断を下せるが、改革が会社全体に関わるため、従業員は「責任」を感じ、会議を開いても具体的に動きにくかったという。「従業員が自ら考え、決め、取り組んでもらうのが一番良いと思っていましたが、それでは変わらないと実感した」という二村氏。「全体の責任を取れるのは社長である私だけ。従業員が思っていてもできないことを決めるのが、私の役割だ」と、ここで改革を「決定は社長、実践は従業員」というトップダウン形式に転換した。

業界の常識を疑い、「納引き」サービスを削減

nimura_02.jpgこの業界では顧客の車を自宅まで引き取りに行き、その後再び自宅に届ける「納車引き取り(納引き)」というサービスが広く行われている。同社はこの納引き業務を顧客のニーズを見極め、極力削減することにした。顧客にサービス悪化と受け取られるのではとの懸念があったが、「求められている以上の過剰なサービスもあった」と二村氏。担当が二往復する時間は生産性を大きく下げ、長時間外出する分、本来の主要業務である店舗での来客応対時間の減少、マネジメント業務へのしわ寄せ、さらには残業時間の増加につながっていた。「お客さまにうかがってみると意外にも来店を選んでくださる方が多かった。結果、担当が店舗にいる時間が増え、対面で一層行き届いたサービスを提供できるように。固定概念を払しょくする契機となりました」

午後8時以降メール禁止が従業員の意識を変革

納引きや急な修理要請などで店舗を空けることが多く、事務作業は帰社後に残業で行うのが常態化していた。そこで導入したのが「午後8時以降メール禁止」だ。従業員は、おのずと時間を意識し、効率的に働くように。労働時間を削減できただけではなく、従業員たちの業務に対する計画性への意識を高めることにもなった。また従業員によって偏りのあった有給休暇消化を改善するため、年末年始に合わせて2日間の休暇を付与する計画的な有休付与制度を導入し、取得への迷いを払しょくした。

「捨てる業務」を明確化、マネジメントに注力

nimura_06.jpg各店舗の店長は、営業力が高い「叩き上げ」の精鋭だという。そのため店長としての管理業務をこなす傍らで、顧客も抱える「プレイングマネージャー」となり、マネジメントの時間を確保できず、結果現場での生産性を下げる悪循環に陥っていた。そこで店長のプレーヤーとマネジメント業務の比率を、当時本人たちが認識していた9:1から7:3まで引き上げることを目指し、自身の業務の棚卸しを行い、捨てる業務や権限委譲する業務を整理。二村氏が捨てる業務の最終決定を行い、業務をスリム化した。

取組の中で苦労したこと 〜「捨てる業務の決定」は社長の責任…トップダウンの意義

「トップダウンでなければできない改革と、ボトムアップで進めるべき改革があることを知れたのは、良い経験になりました」と二村氏。遅い時間のメールや納引きなど、これまでの常識を変えることに、従業員の戸惑いもあったが「従業員は会社を、そしてお客さまを思ってくれているからこそ、業務でもサービスでも『捨てる』ことができないんです。そこを『捨てなさい』と言うのが、私の役割だと認識しました」と語る。

取組の成果 〜時間を意識した働き方で労働時間が減少

以前に比べ16%の納引きを削減でき、午後8時以降のメールはほぼ無くなった。改革の成果は数字に現れ、月当たりの所定労働時間は43.5時間から40.6時間に削減できた。また、取組後の従業員アンケートでは「時間を意識して働くようになった」という声が増え、時間に対する意識改革が浸透。さらに店長の業務スリム化によりマネジメントも行き届くようになり、結果として顧客サービスの充実につながっている。また有休取得率は34.7%から53.4%に上昇、今後は60%の実現を目指している。

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課題や今後の目標 〜ミドルアップからボトムアップへ

二村氏は若年層の従業員と意見交換を行う労使懇談会も行っている。「顧客満足・従業員満足・経費削減」を目指す業績アップ委員会では、チームごとに二村氏とさまざまな話をする茶話会も開く。改革で得た時間を研修・人材育成に利用したいと語る二村氏。「トップダウンから始まった改革ですが、店長や副店長などを中心とした『ミドルアップ』に移行しつつあります。組織として一番強いのは、従業員主体のボトムアップです。全体が下向きな自動車業界の中で発展を続けるには、同じ目標を胸に一人一人が活躍できる会社をつくらなくてはいけません。従業員には私がどんな人間で、何を考えているのかを知ってもらいたいし、私も皆のことを知りたい。対話する時間を設け、近いうちに本当のボトムアップの基盤を実現したい」

従業員からの評価

販売店舗勤務
30代男性

nimura_05.jpg「午後8時以降のメール禁止」で、以前よりも仕事の優先順位を考えるようになり、これが残業削減につながりました。納引き削減の取組は「お客さまとのご縁が切れるのでは…」と、当初は確かに不安を感じました。しかし実際にお願いしてみると、快く来店してくださる方が多く驚きました。お客さまとのこの関係性を大切にしていきたいと改めて思いましたし、何より店舗でお客さまと向き合い、じっくりと車の話ができる時間が増えたのがうれしい。今回の働き方改革は私たち従業員のための改革であるだけでなく、お客さまのための改革なんだなと実感しています。

取材日 2019年9月

二村自動車株式会社様の具体的な取組過程や内容は、こちら(県内中小企業での働き方改革の身近なモデル事例)をご覧ください。