働き方改革実践(認定企業)取組企業事例一覧

結婚・出産後も働き続けられる幼稚園を目指して
カリキュラムを変え残業削減、時短勤務も可能に

学校法人三光学園

  • サービス産業
  • 福山市
  • 31〜100
  • 推進体制(経営者)
  • 長時間労働の削減
  • 休暇取得の促進
  • 育児・介護・治療と仕事の両立
認定マーク
所在地 〒720-0004 広島県福山市御幸町中津原1012-6
URL http://www.chizuru-yochien.com/
業務内容 保育事業
従業員数 51人(男性4人、女性47人)

(2019年6月時点)

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  • 年間カリキュラムを改良し、質の高い保育と残業削減を実現
  • チームで教える体制整え、休みやすい組織に
  • 時短勤務や時差出勤を導入し、子育て中の職員を支援
  • 朝礼を夕礼に変更して全員が参加、フリーアドレスで交流促す

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取り組んだ背景 ~結婚・出産による離職者を減らす

sankou_01.jpg福山市内で千鶴幼稚園と神辺千鶴幼稚園、付帯事業として小規模保育事業A型の千鶴保育園と神辺千鶴保育園を運営。働き方改革に取り組んだきっかけは、一方の保育園の人間関係が悪化して管理が行き届かず離職してしまうことだった。取組に入る前の2016年度の離職者数は10人で、全職員の5分の1に当たる。人材を安定して確保するためには、家庭と仕事を両立できる職場環境をつくることはもとより、人間関係の良い運営の在り方を研究し離職者を減らすことが急務と考えた。藤井行夫理事長は「『働きやすく、生き甲斐が持てて、生涯の生活設計ができる学園に!』を合言葉に、改革の方針を打ち出しました」と振り返る。抜本的な業務改善が必要と考え、県教育委員会の「遊び、学び育つ、ひろしまっ子」推進プランに合わせたカリキュラムの作成や、県の働き方改革企業内推進人材養成セミナーに参加し、学びを深めていった。

主な取組と工夫点

年間カリキュラムを改良し、質の高い保育と残業削減を実現

sankou_02.jpg幼稚園では運動会や発表会など多くの行事があり、行事ごとに職員が残業して作り物や掲示物を作成。行事直前には退社が午後7時を過ぎることもあった。参加したある研修会で、行事と日頃の保育を関連づける、従来とは異なる保育を知ったことで、新たなカリキュラムづくりに着手した。例えば、以前は職員が園児に特定のテーマを与え、同じ作品を全員に作らせていたが、園児が作りたいもの、描きたいものを生活の中で見つけ、牛乳パックやペットボトルのキャップ、お菓子の箱などを自宅から持参させる工作に切り替え、子どもの創作意欲を引き出す仕組みにした。現在は運動会や発表会などさまざまな行事にその考えを取り入れている。平時に作った作品を行事にも活用するため、職員による行事直前の作業が大幅に減り、残業削減につながった。また、その空き時間で専門性を伸ばす自己研さんや、園内研修を開き、質の高い保育を提供できるようになったほか、職員のやりがいが生まれ、仕事へのモチベーションも向上しているという。 また藤井理事長自らが保護者に対し、延長保育をせずに最長でも午後6時までに迎えにきてもらうように呼びかけを行った。保護者からは協力的な意見が得られ、職員の残業時間削減につながっている。

業務を支援し合うチームティーチング体制

sankou_03.jpg従来は職員1人が一つのクラスを担当しており、休みにくい状況だった。そのため、複数人の職員で1つのクラスを担当する「チームティーチング体制」を取ることにした。日頃からチームで業務をカバーし合うことで、職員の家庭の事情で突発的に休んだりしても対応しやすい環境を整備した。職員からも以前より有休が取りやすくなり助かっているという声が上がっている。

時短勤務制と時差出勤制で子育て中の職員を支援

sankou_04.jpg職員が子育てをしながら働き続けることができるよう、1日6時間の時短勤務制度を設け、さらに従来の正職員と同等の扱いにした。また、従来の8時間勤務者とローテーションを組み、時差出勤を実施。園児の多い時間帯に職員を多めに配置するように工夫。自身の子育てを終えたら、希望に応じて通常の勤務に戻れるように制度化した。時間の都合に配慮してもらえる働きやすい職場だと評判が広まり、かつて離職した職員が復帰する事例も出てきている。

朝礼を夕礼に変更、職員室をフリーアドレス化

sankou_05.jpg朝は子どもの発熱など、突発的なことに対処してから出勤する職員も多いため、午前8時から行っていた朝礼を午後4時30分からの夕礼に変更した。朝の慌ただしさが緩まり、夕方に職員全員が落ち着いて集まれるようになったという。さらに職員同士の雰囲気を変えたいと、職員が年代を超えて気軽に交流できるフリーアドレスを導入した。「左右や正面の職員とも話しやすく、互いの会話が自然と盛り上がるように。行事などの打ち合わせもスムーズにでき、以前より仕事の効率が上がっていると感じています」と主任の鍬本琴永氏。

取組の中で苦労したこと ~新カリキュラムへの戸惑いも

さまざまな新しい取組は、自分のスタイルを築いたベテラン職員には違和感を持つ人も少なくなかったという。しかし、新しいカリキュラムの取組をしていると情報があれば遠方の園でも積極的に見学に出かけ、その良さを伝えるなど職員同士の研修を行い、話し合いを続けた。こうした結果、共感が広がり、自然と取組が加速し始めた。藤井氏は「職員同士で、カリキュラム改善のアイデアを出し合う姿があちこちで見られるようになりました」と話す。

取組の成果 ~離職者が減少、復職者は増加傾向

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職員が結婚や出産で辞めない施設にしたいという思いは取組を始めた2年後から成果に現れた。2016年度に10人だった離職者は、翌年に9人、さらに翌年は5人と半減。2019年度はわずか1人(2020年3月退職)の予定だ。新カリキュラムの実践によって、長時間労働を削減したことなどが奏功しているようだ。職員に実施したアンケートでは、「働きやすい」と答えた職員の割合が9割に上った。

課題や今後の目標 ~先行事例として他の幼稚園の参考になれば

sankou_07.jpg園児の自主性を重んじるカリキュラムを次々に採用し、時短を実現させることができたが、改革の取組は状況に合わせて改良し継続していなかければならない。藤井氏は「働く人の労働時間を無理に短縮する、単なる〝時短ハラスメント〟になっては、働き方改革の本質を見失う」と緊張感を持つ。「職員には笑顔で、園児に接してほしいと思います。そのためには、職員自身の生活や家庭を守ることが重要で、それが質の高い保育の実現につながると考えています」と、言葉にして伝えているという。藤井氏は県私立幼稚園連盟の副理事長も務めており、これらの先行した取組を「広島県の私立幼稚園に少しでも広げていければいいですね」と思いを語った。

従業員からの評価

千鶴幼稚園
鍬本 琴永 主任

sankou_08.jpg私は子どもが小さい頃に一度退職し、子育てが落ち着いたので復帰させてもらいました。以前勤めていた時、どうしたら子育てをしながら働ける園になるのか、考える機会を頂き、「担任が休みを取りやすくするためにはローテーションできる体制にしましょう」と意見しました。復帰して驚いたのは、チームティーチング体制が整い、職員が休みやすい環境になっていたこと。いま一番下の子を当園に預けながら3人の子育てをしていますが、残業もめっきり減り、休暇の取りやすいシフトを組んでもらっています。子どもの参観日のために時間単位で休ませてもらい、毎回出席できています。

取材日 2019年10月